研究概要 |
異常プリオンPrp^<Sc>やプリオン蛋白質(PrP)のアミロイド線維は超分子複合体であり、非結晶性の凝集体であるので、通常の溶液NMRやX線結晶構造解析は適さない。そこで、(1)PrPアミロイド線維の重水素交換、(2)DMSOによる線維の可溶化、(3)NMRによる重水素交換の追跡、この一連の手法を用いてアミロイド線維内で水素結合を形成しているアミノ酸残基を特定することを目標に研究を行った。しかし、この手法ではDMSO溶液中でPrPのHSQCスペクトルを帰属する必要がある。現在、この帰属に難航しておりまだ実験が終わっていない。今後も引き続きHSQCスペクトルの帰属を行う、と同時にPrPアミロイド線維の構造情報をさらに得るため、PrPオリゴマーや断片化したアミロイド線維のNMRスペクトルの直接測定を行っていく予定である。 一方、当研究室では正常PrPを安定化して、PrP^<Sc>への構造変換を抑制する低分子化合物の探索を行っている。そこで本研究では低分子化合物の添加によるPrPの揺らぎの抑制について調べた。まず、大腸菌の大量発現系により^<15>NラベルPrPを作製して、800MHz NMRを用いてT1,T2,NOEを測定した。その結果、低分子化合物Aの添加により、PrPのヘリックス2,3間のループ部分の揺らぎが抑えられる事が分かった。このようにPrPの揺らぎを制御することにより、PrP^<Sc>への構造変換を抑制することが可能であると考えられる。 また、PrP^<Sc>の形成には"中間体"の存在が示唆されているがその構造は未だ不明である。そこで、高圧NMRを用いて天然状態から変性状態への連続的な構造変化を見ることによって、中間体の構造を明らかにすることを目的として実験を行った。その結果、pH3.0で2500atmまで加圧して、さらに0℃まで温度を下げることによりPrPがほぼ変性することが分かった。今後、PrPの天然状態→中間体→変性状態への圧力依存的構造変化を調べて中間体の構造を明らかにしたい。
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