これまでは特に日本の映画教育運動に焦点を当ててきたが、本年度は日本本土から離れて実験国家「満洲」という視点を取りいれることで、映画教育運動の可能性をよりマクロな視点から考察を行うことを目的とした。日本の文部省に相当する満洲の文教部社会教育課で映画教育に携わり、満洲映画協会入りを果たした後も巡回映写に力を入れた赤川孝一の活動からは、満洲が「ポスト活字国家」の実験場として重要な意味を持ったことが明らかとなった。映画史研究において、戦後、東横映画(のちの東映映画)が満洲人脈によって成立した経緯はよく知られているが、この赤川孝一も東映の十六ミリ映画部(教育映画部)に参画して、1958年には日本初のフルカラー長編アニメーション『白蛇伝』を完成させた。この文部省選定映画は、第十一回ベニス国際児童映画祭銀賞、毎日映画コンクール特別賞などに輝く「ジャパニメーション」の金字塔である。『白蛇伝』の製作スタッフであった大工原章・大塚康生・森康二は、その後、スタジオ・ジブリに流れていくが、戦後日本のアニメーション産業の原点も、「ポスト活字」の系譜の中に求めることができるのである。 なお、その研究成果は、「メディア史研究会」(日本大学三崎町キャンパス)、国際シンポジウム「20世紀東アジアにおける視聴覚メディア相互連関」(日本大学文理学部百周年記念館)において発表を行った。また、『メディア史研究』第30号に投稿し、査読結果を待っている状態である。
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