研究課題
特別研究員奨励費
本研究は、固形腫瘍へのドラッグデリバリーの向上を視野に入れて、固形難治癌への薬剤の送達を解析することを目的としている。これまでに「間質が豊富で偽腺管構造を有する」という特徴を有する膵癌の動物モデルを作成した。また、この癌モデルへのドラッグデリバリーを解析するために、in vitroでlayer-by-layerの手法を基とした積層培養の方法を用い、間質への薬剤の浸透性を評価した。ここで、線維芽細胞の層が浸透性のバリアとなっていることが分かったため、前年度より局所的な治療効果を発揮できる抗癌剤内包温度感受性リボソームの癌への送達に取り組んだ。42-45℃で内包した抗癌剤を放出する温度感受性リボソームを作成し、蛍光マーカーであるカルセインや抗癌剤で凝るドキソルビシン、核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging : MRI)の造影剤であるマグネビストを内包させた。次に、以前報告された、金ナノ粒子とファージをイミダゾールを介して自己組織化(self-assembly)で結合させるという手法を応用し、金粒子-ファージ-リボソームの3次元構造(ナノスキャフォールド)を作成した。このナノスキャフォールドは、近赤外付近(650nm~950nm)に吸収ピークを示し、近赤外レーザー光によって熱を産生し、産生された熱によって温度感受性リポソームからの内包物の放出が促進することが観察された。このナノスキャフォールドをトリプルネガティブ乳癌の標的ペプチドであるCRKL標的ペプチドを発現させたファージを用いて作成し、癌モデル動物に投与すると、腫瘍組織に多く集積する結果が得られ、レーザー光の照射による温度上昇とそれによる局所的なリボソーム内包物の放出が観察された6このCRKL標的金粒子・ファージ・リポソームナノスキャフォールドとそれに続くレーザー照射(ナノスキャフォールド光温熱療法)は、従来のリボソームのみの治療に比べて高い制癌作用を持つ方法として期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、EPR効果によるリボソームの癌への集積とそれによる癌細胞への殺作用を目的としていたが、癌ホーミングペプチドを発現したファージと金粒子、近赤外レーザー光を組み合わせることにより、より効率良く、癌組織をターゲティングできるようになったため。
金ナノ粒子・ファージ・リボソームの複合体は、腫瘍組織に集積し、近赤外レーザーによって温度上昇と局所的なリボソームの放出が観察されたので、今後は、複合体の投与量やレーザーの出力量などのパラメーターを、腫瘍組織により有効で、かつ正常組織により非侵襲的になる,ように最適化を行う。
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Nature Communications
巻: 3 ページ: 788-798
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 419 号: 1 ページ: 32-37
10.1016/j.bbrc.2012.01.117