研究概要 |
本研究は齧歯類を対象に、環境内の探索に伴う外界認識について行動学的手法を用いて検討するものである。シリアンハムスターの空間探索における手がかり利用の研究を昨年度に引き続き検討した。ハムスターが垂直次元の情報をナビゲーションに利用できるのか、また、装置形状のような幾何学情報と競合させた場合にどちらを優先的に利用するか検証することを目的とした。長方形装置の床に段差を設け、装置の四隅のうち1つを選択するよう訓練した結果、多くが幾何学手がかりを無視して段差を降りる傾向を示した。課題の妥当性を確認するために平坦な床で幾何学情報のみを利用可能か検討したところ、ほとんどの個体において学習が成立した。,したがって当初の装置自体に問題があったわけではなく、降下反応をもたらす段差が幾何学情報利用に影響した可能性がある。下方に向かう行動傾向は本実験場面に特異的な現象なのか、あるいはどのような垂直次元情報に対しても生じる傾向なのか検証するため、段差ではなく傾斜したアリーナで実験を行った。装置の下に箱をおいて全体を傾けた状態で同様の訓練を実施した。現在までのところ、垂直次元情報を降下するという行動傾向はハムスターにとって頑健な可能性があるが、空間手がかりとして利用できるかについては引き続きの検証が必要である。他に、デグーにおけるニオイによる個体識別に関する実験をおこなった。馴化一脱馴化法を用いて、オスの被験体が他個体オスのニオイを識別できるか検討した結果、ニオイ刺激周辺の探索は馴化試行を重ねるにつれて減衰した後にテスト試行において再び上昇、脱馴化が認められた。今後は被験体やニオイ元の個体の条件を操作し、オス―メス、メス―オス、メス―メスの間のニオイ識別能力などと比較することで、デグーの一般的な嗅覚的個体識別能力を検証できると考えられる。
|