研究概要 |
本研究は、高等生物と極めて近い細胞内システムを有し、生化学や分子細胞生物学などの分析技術に加えて、遺伝学という強力なアプローチを駆使することが可能な分裂酵母モデル生物を用いて、MAPキナーゼシグナル依存的に制御されるRNA結合蛋白質の生理機能を明らかにすることを目的としたものである。 特に、RNA結合蛋白質を介した『細胞増殖と分化』という細胞運命の制御機構を分子レベルで明らかにすることに焦点を当て、本年度は以下のことを明らかにした。 昨年度、網羅的に同定したRNA結合蛋白質Nrd1のターゲットmRNA群、および複合体を形成しているパートナー蛋白質群について、KOome、およびORFeomeを活用したゲノムワイドな<分子遺伝学的アプローチ>、および<生化学的アプローチ>により機能解析を行った。その結果、それらの因子が細胞増殖期、減数分裂期のみならず、ストレス条件依存的にNrd1と相互作用することを明らかにした。また、興味深いことにNrd1が熱ストレス、亜ヒ酸ストレス、酸化ストレス、高浸透圧ストレスといった環境ストレス条件下において、MAPキナーゼによるリン酸化依存的にストレス顆粒に局在することを発見した。さらに、Nrd1はストレス顆粒の形成を制御しており、ストレス応答における重要な因子であることを証明した(Satoh et al.,PLoS ONE 2012)。また、抗がん剤DoxorubicinがRNA結合蛋白質PabpやVgl1を介してストレス顆粒の形成を促進することを発見し、がん細胞の抗がん剤抵抗性獲得のメカニズムに、ストレス顆粒が関与している可能性を示唆する知見を得た(Morita et al.,Biochemical and Biophysical Research Communications 2012)。
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