研究概要 |
(1)異種核多次元NMR法をもちいた生細胞内蛋白質のダイナミクス解析 本研究では,細胞内における蛋白質の詳細なダイナミクスを明らかにするため,これまでにTTHA、1718とGB1について,in-cell NMRにより大腸菌細胞内における^<15>N-T_1,T_2緩和測定を行い,精製した試料と比べともにT_1緩和時間が伸長し,T_2緩和時間が短縮されていることを示した.本年度ではこれらの緩和時間の変化の原因を検証するため,大腸菌細胞を用いたin-cell NMRにより^<15>N-DEST実験を行った.^<15>N-DEST実験では,観測対象が1MDaを超える分子量を持つ物体(細胞膜,巨大な蛋白質複合体など)と,ms-sタイムスケールで相互作用している場合,交換速度などのパラメータを解析することができる.In-cell NMRによりDEST測定を行った結果,精製した試料から得られたデータと比べ,よりブロードなプロファイルを示し,細胞内においては,細胞膜や蛋白質複合体などの巨大な分子と相互作用していることが示唆された. (2)真核細胞蛋白質大量発現系をもちいたin-cell NMR測定法の確立 本研究では,精製が困難,あるいは安定性の低い蛋白質に対しても適用可能な真核細胞を用いたin-cell NMR測定法を開発するため,sf9細胞を利用したin-cell NMR測定法の確立に取り組んでおり,これまでに試料調製法の最適化により,バックグラウンドの低減に成功している.本年度では,さらに目的蛋白質の遺伝子をコードしていないウイルスを調製し,このウイルスを接種した細胞から得られたin-cell NMRスペクトルと,目的蛋白質を発現した細胞から得られたin-cell NMRスペクトルとで差スペクトルを取ることで,バックグラウンドのみを効果的に取り除くことに成功した.加えて,3D3重共鳴NMR測定にも成功し,これらのスペクトルを解析することでGB1ドメインについて主鎖シグナルの約8割の帰属に成功した.また,3D^<15>N-NOESY測定では,NOE由来のクロスピークを観測することに成功したことから,今後さらに側鎖の帰属を行うことで,真核細胞内における蛋白質の詳細な立体構造解析を行えることが考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)では,DEST実験により細胞内において蛋白質は細胞膜や蛋白質複合体など,巨大な分子と相互作用していることを示唆する非常に興味深いデータが得られた.また(2)においては,真核細胞を利用したin-cell NMRとしては世界で初めて3D3重共鳴NMR測定に成功し,また得られたデータを解析することで主鎖シグナルの帰属に成功した,また,NOE由来のクロスピークの観測にも成功した.以上の成果から(2)が妥当であると判断した。
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