本研究は、研究課題である「日本国憲法における平等権の解釈」のもと、憲法上の平等権概念を明らかにすることを目的とし、二年目の昨年度は、「間接差別」に焦点をあて、平等権の内実の一端を明らかにした。 間接差別とは、「文面上一見中立な法律が、結果として不均衡な割合で特定の事由を有する集団の構成員に不利益を与えるもの」である。この間接差別が、日本国憲法第一四条第一項が規定する「法の下の平等」の保障範囲に含まれるか否かが主たる研究課題であった。これまで、同条項をめぐっては様々な解釈がなされてきたが、通説的見解は、原則として形式的平等を保障しており、実質的平等の実現までは義務付けていないというものである。すなわち、各人に平等な機会を与えることこそが平等であり、結果における平等はあくまで例外とするのである。このような「結果の平等」を例外であると解する支配的立場において、法律が直接規定した区別それ自体ではなく、法律のもたらす結果を重視する間接差別禁止法理(以下、「間接差別法理」とする)を、憲法の平等権概念から直接導き出すことは難しい。しかし、差別構造が複雑な現代社会においては間接差別も問題となってきており、間接差別を憲法の平等権概念の中にどのようにして位置づけるのかという検討は避けられないはずである。 以上のような問題意識のもと、本研究では、まず、比較対象であるカナダにおける平等権概念を整理し、カナダ連邦最高裁及び学説の見解は、争われている法律が適用された「結果」、原告に対してどのような不利益をもたらしたのかという観点から平等権条項の保障範囲を論じていることを明らかにした。次に、このような実質的平等権概念は、平等権とは法律がもたらす「結果」を重視するものであり、このような解釈に従えば、間接差別法理を憲法上位置付けることを要請すると提起した。そこで、実質的平等権概念から浮かび上がる間接差別法理についてカナダにおける事例を分析し、間接差別法理独自の論点を挙げ、検討を加えた。その上で、ここまで検討してきたカナダにおける間接差別法理及びそれを含む実質的平等権概念が、我が国にどのような示唆を与え得るのか検討した。具体的には、我が国が労働法の分野で間接差別を認識し、近年それに関する法改正が行われたことを踏まえ、その現状と問題点を指摘した。次に、判例上、我が国がいまだ憲法上の問題として間接差別を正面から認めていないことを踏まえ、これまでのカナダにおける議論をもとに、間接差別に該当するという意味での平等権違反事例としてそれらの再構成を試みた。その結果、我が国の憲法問題に関する判例では実質的に間接差別法理を採用し、その判断枠組みも、カナダにおける議論と重なる点が多いことを指摘し、間接差別法理を日本国憲法においても適用可能--もしくは、既に適用されている状態にある--と解することができるのではないかと結論づけた。
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