研究課題
特別研究員奨励費
本研究の目的は、惑星の最外大気層である外圏が太陽風の重イオンと電荷交換反応(Solar Wind Charge exchange;SWCX)を起こすことで放出されるX線を観測し、天体の希薄な大気組成や分布を、太陽活動による変動も含めて特定し、X線観測をプローブとした惑星科学を開拓することである。そのために私は、ASTRO-H衛星に搭載されるマイクロカロリメータ(Soft X-ray Spectrometer;SXS)による世界初の宇宙観測成功に向けたデバイス作りと試験を行っている。私は共同研究者とともに、SXSの冷却に使用する超流動ヘリウムの蒸発量を抑えるために、最適なデバイスの選定を進めてきた。今年度はエンジニアリングモデルを使い、衛星打ち上げ時の振動にデバイスが耐えることを確認する試験を行い、試験前後での性能評価を行った。その結果、振動試験後もデバイスが性能を保持していることが確かめられた。また、SXSシステムに組み込み、ヘリウムタンクに本番相当の熱流入がある中での性能試験も行い、要求を満たすことを確認した。惑星X線の観測については、「すざく」打ち上げ後の2005年8月から2011年9月までの全観測データを解析し、地球外圏からのSWCX放射を含んでいるデータを探した。2031データ中38データで地球由来のSWCX放射を検出し、視線方向や観測時期の太陽活動などによる放射強度の比較を行った。その結果、太陽側に限らずあらゆる方向からSWCXによるX線が放射されていることが分かった。また、太陽風イオンフラックスとX線フラックスから地球外圏の大気密度を計算したところ、太陽活動によって外圏密度が変動している様子を捉えることができた。これを外圏の大気密度モデルと比較した結果、モデルの不定性が大きい高高度(~30地球半径)まで外圏が広がっている可能性が示唆された。これらの解析結果は博士論文としてまとめた。
2: おおむね順調に進展している
目的は惑星からのSWCX放射の特徴を太陽活動など惑星周辺環境と合わせて探ることであり、そのためにデバイス開発と既存のデータ解析を行っている。デバイス開発はフライト品相当のデバイスを使った性能試験を行い、デバイスが正しく機能し、要求を満たすことを確認した。データ解析に関しては、地球外圏でのSWCX放射について系統的な解析を行った。具体的には「すざく」衛星で観測された全X線データを解析し、地球外圏からのSWCX放射を抜き出し、太陽活動や視線方向ごとのSWCXによるX線放射強度の比較をした。そこから、SWCX放射が太陽方向に限らず、地球大気のあらゆる方向から出ていることが分かった。これらのデータ解析の結果を博士論文としてまとめた。
デバイス開発に関しては、フライトモデルを使ってシステム単体での性能試験を行い、要求性能を満たすことを確認する予定である。データ解析では、地球外圏からのSWCX放射の系統解析によって得られた結果をもとに、X線による磁気圏撮像衛星の可能性を探る。また「すざく」による木星観測データの解析を進める。木星は2008年の太陽活動極小期にも観測されているため、太陽活動によるX線放射強度の変化の有無や放射メカニズムの違いなどを調べる。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (8件)
Advances in Space Research
巻: 51 号: 9 ページ: 1605-1621
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