研究概要 |
本研究における平成23年度の研究実績をトピックスごとに述べる.なお,前年度に投稿した成木勇夫教授との共著"Some elliptic fibrations arising from free rigid body dynamics"はHokkaido Math. J.に受理された. 1. 3次元回転群$SO(3)$上の測地線の力学系は,自由剛体の運動を記述する可積分系である.この力学系は$SO(n)$上の可積分測地流へと自然に拡張される.Marsden-Weinstein簡約により,この力学系はLie環$\mathfrak{so}(n)$上のEuler方程式で記述される.この力学系の平衡点の安定性解析についてはあまりよく知られていなかった.平成22年度にこの簡約力学系の座標型Cartan部分代数に含まれる平衡点の安定性解析を線形近似の方法により行った結果をT.S.Ratiu教授(スイス・EPFL)との共著論文にまとめていたが,エネルギー・Casimir法により非線形安定性条件を上の一部の平衡点について得た. 2. 1.の$SO(n)$の可積分測地流はさらに$U(n)$上の可積分測地流へと拡張される.これについても平衡点の安定性解析を行った.具体的には,標準的なCartan部分代数に含まれるEuler方程式の平衡点の線形安定性を調べた.いくつかの場合には非線形安定性条件を得ている. 3. 数学的には可積分系はLagrangeファイバー空間へと一般化される.そのうちLeung-Symingtonの導入した概トーリックLagrangeファイバー空間は比較的扱いやすい.また,このようなファイバー空間のモノドロミーは力学系の分岐現象を反映するため,盛んに研究されている.私は,K3曲面の概トーリックLagrangeファイバー空間(これを可積分な力学系とみてK3力学モデルという)を楕円曲面のWeierstraβ標準形を用いて具体的に構成した.さらに,物理学者・化学者B.Zhilinskii教授が提起していたある特別なモノドロミーをもつK3力学モデルの構成問題を上記の方法を用いて数学的な観点から考察し部分的な解決をあたえた.これについては,数理解析研究所講究録およびCent. Eur.J. Math.に論文が掲載または掲載決定している.
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