平成23年度は、米国反トラスト法及びEU競争法からの比較法的考察を中心として、製品の安全性を確保するためになされたカルテル等が適法と評価されないかという反競争的行為の正当化事由(justification)の研究を行った。 まず、米国反トラスト法に関しては、連邦最高裁判所の判例の多くが「公共の利益」(public interest)を考慮することを排斥して、競争を促進する経済的正当化事由に限定していることを示した。問題は「競争促進的」(procompetitive)とはいかなる場合を指すかということであるが、California Dental事件が情報の非対称性という「市場の失敗」(market failure)を是正する取り組みを肯定的に評価していることが注目された。この成果は、柳武史「米国反トラスト法における反競争的行為の正当化」(2011年)として公表した。 次に、EU競争法に関しては、伝統的には「公共の利益」が考慮されてきたが、判例は必ずしも一枚岩ではないことを示した。そして、近時の欧州委員会は経済的アプローチに傾斜しており、競争促進的効果を検討対象としている。とりわけCECED事件が外部性という「市場の失敗」の是正について正当化の契機と位置付けていることが注目された。この成果は、柳武史「EU競争法における反競争的行為の正当化」(2012年)として公表した。 経済的正当化事由に限定する見解は、直接の民主的基盤をもち多様な価値を妥協してきた議会こそが競争と対立し得る「公共の利益」を考慮する適切なフォーラムであるという立法府と司法府の役割分担論等を根拠とする。そして、「市場の失敗」を是正する取り組みは、機能不全に陥った市場メカニズムを回復させるものとして、「競争促進的」と評価し得るものである。この論理は我が国独占禁止法においても妥当し、グローバルな市場経済において正当化の解釈を収斂させ得ることが示唆される。
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