研究概要 |
本年度は成熟ネコ一次視覚野に対し、Lysolecithin投与を複数箇所で行い、効果範囲の拡大を試みた。約2mm四方の範囲に計3μlのlysolecithinを投与し2週間後の記録を行ったが、損傷が激しく視覚反応の記録と機能コラム構造の観察を行うことは困難であった。前年度に確立した、浸透圧ミニポンプによる投与法では、再現良く成熟ネコに眼優位可塑性を再誘発することができた。しかし、可塑性誘発範囲は薬液投与カニューレから約1mmの範囲に限局されており、その範囲内では視覚刺激に反応するニューロンはわずかであった。よって、本研究で用いたlysolecithinによる可塑性の再誘発には、組織の脆弱化と効果範囲の狭さという、臨床応用を目指す際の問題点が存在することが明らかになった。 一方、幼弱期動物の可塑性を制御している分子メカニズムとして、内因性カンナビノイドシステムに注目し数々の知見を得た。カンナビノイド受容体であるCB1は一次視覚野においては主に抑制神経終末に存在し、生後発達、視覚経験依存的に発現が調節されることが明らかになった。また、一次視覚野深部層のCB1シナプス局在は視覚経験の変化に強く感受的であることが示唆された。内因性カンナビノイドの一つである2-AG合成酵素、DGL-αは、CB1同様に視覚入力、発達依存的に制御され、眼優位可塑性の感受性期周辺をピークとする発現プロファイルを示した。DGLの薬理学的な阻害とDGL-α,βそれぞれのサブタイプ欠損マウスを用いた研究により、DGL-αが眼優位可塑性に寄与する分子であることが明らかになった。興味深いことに、CB1とDGL-α間には視覚皮質の領野、層、シナプスレベルでの分布と局在のミスマッチが観察された。
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