研究概要 |
本年度は、昨年度の成果である、仏教論理学派の展開期を代表する中観派の思想家、シャーンタラクシタ(8C)著『摂真実論』・カマラシーラ(同)著『注釈』、唯識説が説かれる「外界対象の検討」章のサンスクリット語校訂テクストと訳注からなる基礎研究に基づき、その思想研究の成果の公表、及び実地調査を以下のとおり実施した。 1.同章第83-86偈を検討して、シャーンタラクシタの仏智観が中観派の立場に立つとする従来の説を批判し、ブッダの自己認識を説く唯識説に立脚したものであることを明らかにした。[学会:"On the Buddha's..."] 2.同章第114偈に提示される認識論的な側面から唯識性を証明する論証、及び第25-34偈に説かれる存在論的な側面から唯識性を証明する論証を各々取り上げ、解釈上の問題点を挙げて考察した。[雑誌:「シャーンタラクシタの唯識論証…」,「『タットヴァ・サングラハ』における<離一多性>論証」,学会:「シャーンタラクシタによる<唯識性>の第二…」] 3.同章第118偶に示される認識の無二性が『観所縁論』に見られる認識の二相性と相反しないことを明らかにした。[学会発表:「シャーンタラクシタの唯識二諦論…」,雑誌論文"On the Alambanapariksa..."] 4.極微論批判が展開される「外界対象の検討」章前半部34偈を検討してその梗概を示し、二種の議論が存在論的、認識論的な各側面からなされ、二種の唯識文献に遡及されることを明らかにした。[学会発表:"Two ways..."] 5.ジャイサルメールに二ヶ月間滞在し、ジャイナ教僧団の協力下、ジャイナ教寺院併設書庫(グランタバンダーラ)に所蔵される『摂真実論』の現存する唯一貝葉写本をカラー撮影することに成功した。その写真を用いて『摂真実論』のサンスクリット校訂テクストを補完した。
|