研究概要 |
サステイナブルな環境共生型社会の構築に向け、再生産可能なセルロース資源を積極的かつ有効に利用する機運が高まっている。本年度は、新規なセルロース系機能材料の開発を幅広く行った。成果を以下の4点にまとめる。 1.シランカップリング法によりセルロース濾紙に導入したメタクリロキシ基をリパーゼ酵素固定化の足場とすることで、新規な紙状固定化酵素の開発に成功した。紙状固定化酵素は、高い活性・選択性を保ったまま繰り返し再利用可能であった。環境調和型の有用化合物生産に向けたグリーンな構造体触媒として今後の応用展開に期待が持たれる。 2.セルロースは、結晶性のナノフィブリルとして草類・樹木の細胞壁を構成している。本研究では、その強靭なナノフィブリルを2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxy1(TEMPO)酸化を利用して取り出し、カーボンナノチューブとのハイブリッド化と電気特性評価を行った。結果として、極めて高強度でフレキシブルな透明導電性フィルムが得られた(可視光透過率約70%・シート抵抗約1,2kΩ/□)。また、湿度センサーとしての応用可能性も示した。 3.上述のTEMPO酸化セルロースナノファイバーは、高結晶性とその表面のみに高密度にカルボキシル基を有している。本研究では、そのカルボキシル基を金属導入の足場とすることで、セルロースナノファイバーと金属触媒の融合ナノマテリアルの創出を試みた。特に、Cu(I)イオンーTOCNナノハイブリッド触媒の調製と高効率なクリック反応システムの構築に成功した。 4.近年、常温溶融塩「イオン液体」に注目が集まっており、電池電解質やCO_2改質触媒、有機合成用溶媒など、様々な応用が検討されている。本研究では、イミダゾリウム型のイオン液体とセルロース間で生じる相互作用を利用することで、イオン液体固定化セルロースの調製に成功した。イオン液体は優れた機能を有するが、極めて粘度の高い液体であるため、その応用が制限されていた。本研究で調製したイオン液体固定化セルロース紙は、まさに紙として扱えるため、実用性が非常に高い。今後、メカニズムの解明や本技術の応用展開が期待される。
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