研究概要 |
抗原および免疫グロブリンEにより高親和性免疫グロブリンE受容体が刺激されると,マスト細胞は活性化しアレルギー反応をひき起こす.一方,生体においてアレルギー反応を抑制するしくみは謎であった. 細胞外領域の構造は類似するが正反対の機能(活性化型および抑制型)をもつ受容体をペア型免疫受容体とよぶ.LMIR(leukocyte mono-immunoglobulin-like receptor,別名CD300)は細胞外領域に1個の免疫グロブリン様の構造をもつペア型免疫受容体である.おもにミエロイド系の細胞に発現し,マウスにはLMIR1~LMIR8の少なくとも8種類のLMIRが存在する.LMIR1とLMIR3は抑制型受容体であり,他のLMIRは活性化型受容体である. これまでの研究により,マウスの骨髄に由来するマスト細胞に発現するLMIR3(別名CD300f)と高親和性IgE受容体を人工的に架橋すると,LMIR3のもつITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif)およびITSM(immunoreceptor tyrosine-based switch motif)のリン酸化を介しSHP-1/SHP-2が動員され,高親和性IgE受容体からのシグナルが抑制されることを示した.しかし,LMIR3のリガンドは同定されていなかったことから,生体におけるLMIR3の役割は不明であった. LMIR3ノックアウトマウスを作製しそのアレルギー反応を調べたところ,マスト細胞の活性化により起こるアナフィラキシー,気道炎症,皮膚炎が増悪していた.他方,LMIR3の生理的なリガンドとして細胞外のセラミドが同定された.セラミドと結合したLMIR3は高親和性免疫グロブリンE受容体への刺激によりこれと共局在し,ITIMおよびITSMのリン酸化を介しマスト細胞の活性化を抑制した.また,LMIR3と細胞外のセラミドとの結合を阻害すると,野生型マウスにおいて皮膚アナフィラキシー反応が増悪した.これらの結果から,マスト細胞の周囲に存在するセラミドとLMIR3との結合により,マスト細胞の活性化とそれに付随するアレルギー反応が抑制されることが示された.
|