研究概要 |
リチウムイオン(Li^+)二次電池は,軽量,高エネルギー密度といった特徴を有する優れた二次電池である。これまでにLi^+電池用材料合成の新規手法としてガラス結晶化法を提案し,高速かつ簡便に材料を合成できる手法である事を明らかにした。しかしながら,ガラス結晶化法では,前駆体としてバルクガラスを経るため,微粉末を得るためには粉砕プロセスが必要になるという問題がある。バルク結晶化ガラスをそのまま利用可能な全固体型Li^+電池を提案することで,ガラス結晶化法のメリットを最大限に生かす事が出来ると考えられる。そのような提案を実現するにあたって,ガラス材料中における結晶成長挙動を詳細に調査することは重要である。結晶成長挙動や形態を明らかにすることで,モルフォロジーの制御や非晶質イオン伝導相の付与などにつなげることができると考えられる。 本年度は,透過電子顕微鏡を用いることでLi_2O-Fe_2O_3-P_2O_5(LFP)ガラス中におけるLiFePO_4結晶の生成・成長挙動の観察を試みた。その結果,LFPガラス中では温度の上昇に伴い,3段階を経てLiFePO_4結晶が成長することが明らかとなった。LFPガラス中において,LiFePO_4はバルク結晶化(均一核生成プロセス)機構により生成する。しかしながら,結晶成長のためには,H_2/ArやグルコースによるFe^<3+>のFe^<2+>への還元が必要であるため,バルク結晶化プロセスではなく,表面から内部へと進行する。 これらの結果から,ガラス結晶化法によりLiFePO_4結晶を合成する際には,前駆体ガラス粉末の粒径,熱処理温度,時間を変化させることで,結晶子サイズの制御や結晶子粒界の非晶質層の制御が行える可能性があると考えられる。Nbの様な異種元素を添加した場合,結晶子界面に排出されると考えられるから,LiFePO_4の界面制御に利用することが可能である。界面制御は,リチウムイオン電池の反応速度を向上させるために有効な手法である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究において,ガラス結晶化法によるリチウムイオン電池正極材料合成の有用性およびガラス中における正極結晶の生成・成長挙動を明らかにした。特にリン酸バナジウムリチウム系においては,通常のセラミックスプロセスで作製したものと比較し,良好な電池特性も得られている。これら成果は,ガラスを前駆体とした全固体型Li^+電池作製に繋がるものである。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において,リン酸バナジウムリチウムLi_3V_2(PO_4)_3およびリン酸鉄リチウムLiFePO_4のようなリン酸遷移金属リチウム結晶およびガラスについて取り扱ってきた。リン酸バナジウムリチウムガラスは結晶化に対する熱的安定性が非常に高く,空気中の熱処理ではほぼ結晶化しないことが明らかとなった。つまり,結晶化が起きる際には還元プロセスを経る必要がある。従って,ガラスの厚み,熱処理温度,雰囲気を制御することで,他の異相を析出させることなく容易にLi_3V_2(PO_4)_3正極結晶材料とLi^+イオン伝導性ガラス材料のハイブリッド材料を作製できると考えられる。この材料と,負極となりうる材料を複合化することにより,結晶化ガラス全固体型Li^+電池を作製可能である。このようにリン酸バナジウムリチウムのバルク結晶化ガラスの作製を進める必要があると考えられる。
|