研究概要 |
最終年度の平成24年度は,超耐摩耗性ダイヤモンド状炭素(DLC)膜実現の一手法として,まず蛍光顕微鏡とキセノンランプを用いたDLC膜の欠陥検出法の提案を引き続き行った.そして本検出法によりDLC膜のバルク欠陥を容易に検出できることを示し,さらにDLC膜の吸収波長依存性を利用することで膜表面の欠陥と内部の欠陥とを分離する手法を提案した.超耐摩耗性の実現には膜中の欠陥を低減させる必要があり,本手法は非接触測定法かつ膜表面からでは観察できない膜内部の欠陥について,製造現場で利用できる光学顕微鏡ベースの簡便な検出方法であり,バルク欠陥の検出に対する要望が増えつつある産業界に対する貢献は大きいと考えられる.ついでC_2H_2,CH_4,H_2を原料ガスとして気相中の水素濃度を変化させてプラズマCVD法によりDLC膜を作製し,膜の水素含有量,バルク欠陥量,比摩耗量等を評価することにより,膜中の水素割合が20atm.%程度の場合に,少膜欠陥量かつ高耐摩耗性を示すことを明らかにし,さらに高耐摩耗性DLC膜の膜構造を提案した.ついで修士課程時に遂行した「繰り返し微小すべり摩耗防止シム部材の開発」に関し,更なる信頼性を検証する追加試験をおこなった.今回はプラズマイオン注入・成膜法に加えプラズマCVD法も用いSUS301製シム上に連続構造DLC(C-DLC)膜及びセグメント構造DLC(S-DLC)膜を作製し,Al板,シム及びダクタイル鋳鉄(FCD)板を積層した試料について10^7回の曲げ疲労試験を実施した.その結果,S-DLCコーティングを適用することで,DLC膜の摩耗はC-DLC膜の場合の約1/50に低減でき,相手Al板への攻撃性低減効果も顕著であることを明らかにするとともに,膜のセグメント構造化による膜剥離の低減機構を提示した.前回実施の10^6回の曲げ疲労試験では,トラック換算で約3000kmの移動距離にしか相当しないため,この結果は開発したシム部材を輸送機器に実装する際に大変重要である.最後に,任意の3次元形状基材にテクスチャDLC膜を適用することを考慮し,従来の金網マスキング法に替わる7自由度ロボットとディスペンサで構成される描画システムを用いたテクスチャDLC膜作製法を提案した.そして,基材表面に沿って線幅約100μmの碁盤の目状マスクを描画し,DLC膜成膜後にマスクを除去することで,曲面を有する基材上にテクスチャDLC膜を作製できることを明らかにした.このテクスチャDLC膜合成法の開発によって,高耐摩耗性付与に必須であるS-DLC膜を3次元基材にまで拡張することが可能となった.
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