研究課題
特別研究員奨励費
さまざまな特異な物性を示す遷移金属化合物に対して光電子分光実験・解析を行いその電子状態を解明した。まず擬一次元構造を有するTa_2NiSe_5について、330K付近で見られる構造相転移に関し我々は基底状態で電子とホールの対がマクロに形成される励起子絶縁体転移の可能性を過去に示唆した。さらに相転移温度点をまたいだ角度分解光電子分光(ARPES)測定から転移によるピーク幅の急峻化や秩序パラメーターを反映したと思われるギャップの成長、バンド幅の増大を観測し、転移の詳細な電子構造変化を捉えたため、その解析を行い国際会議における口頭発表、論文の形式でまとめた。励起子絶縁体転移は理論的にはBCS-BECクロスオーバーという観点からも議論されているため高温超伝導との関連においても興味深いと思われるが、現在までいくつかの候補物質が挙げられるに止まっているため本物質における励起子絶縁体転移の可能性をより深く探っていくことは大変重要である。次に層状コバルト三角格子物質であるLi_xCoO_2(x=0.25)に対し、今回新しく得られた単結晶試料を用いたARPES測定について述べる。Li_xCoO_2は二次電池正極材料として応用上広く利用されている物質であり、エネルギー・環境問題という側面から非常に重要な物質であるが、物理的にも電荷・磁気秩序などの相転移現象が示唆され、さらに水和超伝導など豊かな相図を示すNa_xCoO_2と類似の結晶構造をとるため、層状コバルト三角格子物質群そのものの包括的理解を深める意味でも大変興味深い系である。実験の結果、Naの系同様にa_<1g>とe'_gの二種類のバンド分散が観測され、フェルミ面はa_<1g>のみで構成されていた。一方でe'_gバンドはNaと同程度に繰り込まれていたのに対し、a_<1g>バンドでは繰り込みがほとんど観測されなかった。このようにNaとLiの二系の共通点・相違点を見出した。
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Journal of Superconductivity and Novel Magnetism
巻: (印刷中)(掲載確定) 号: 5 ページ: 1231-1234
10.1007/s10948-012-1526-0
Physical Review B
巻: 83