研究課題
特別研究員奨励費
ボツリヌス菌の産生する神経毒素は、A~Gの7種の血清型に分類され、種々の無毒タンパク質成分(NTNHA、HAs)と会合した毒素複合体(TC)として存在している。NTNHAは、神経毒素をプロテアーゼの分解から保護する。このNTNHAを経口的に摂取が困難なペプチド・タンパク質製剤を体内へ経口的に送達させる輸送容器として応用可能ではないかと考えられる。本研究では、D型NTNHAを新規ペプチド・タンパク質製剤輸送容器として応用するために、NTNHAのX線結晶構造解析、NTNHA-神経毒素間相互作用領域解析ならびに細胞毒性試験を行った。NTNHAの結晶化をハンギングドロップ蒸気拡散法で行った結果、0.2×0.1×0.1cmの結晶が析出した。さらに回折実験を行い、最高分解能3.9Å、P321あるいはP3121/P3221に属し、格子定数はa=b=147.85Å、c=229.74Åと測定された。神経毒素とNTNHAの相互作用領域を解析するためにC型、他のD型菌株の産生する神経毒素とNTNHAの再構成試験を行った。全ての神経毒素はD型NTNHAと複合体を形成した。それぞれの解離定数を求めた結果、C型神経毒素が最も強い値を示した。神経毒素のアミノ酸配列を比較したところC型神経毒素のC末端側配列の相同性が高い神経毒素が強い相互作用を示したことから神経毒素とNTNHAの結合は神経毒素のC末端側の関与が考えられた。NTNHAの小腸上皮細胞に対する細胞毒性を培養液中のラクテイトデヒドロゲナーゼ(LDH)の量を測定した。その結果、NTNHAを添加した細胞の培養液中のLDH量は何も添加していない細胞培養液のLDH量と同等の値を示した。このことから、NTNHAは細胞毒性を示さないことが明らかとなった。これらの結果は、新規薬物送達システムを確立する上で重要な知見であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、研究対象としているボツリヌス毒素複合体構成成分のNTNHAの結晶化に成功し、その構造解析に取り組むことができた。また、NTNHAに他の血清型の神経毒素が結合するとが明らかとなり、さらに神経毒素-NTNHA間の相互作用には神経毒素のC末端側が関与していることが考えられた。しかしながら、NTNHAにシクロデキストリン等の包接化合物を結合させた複合体等の作製にはいたっておらず、このような複合体の作製が、今後の課題である。
今後、NTNHAの構造解析、ならびに神経毒素-NTNHA間相互作用領域を明らかにする。NTNHAの構造、神経毒素-NTNHA間相互作用領域が明らかとなれば、神経毒素とNTNHAの結合に関与する配列が明らかとなる。その配列をペプチド合成しNTNHAと相互作用するかを調べ、相互作用したペプチド配列をタグとして応用し、有用なペプチド・タンパク質製剤に融合あるいは化学結合させ、NTNHA/ペプチド・タンパク質製剤複合体の作製を目指す。作製した新規複合体タンパク質製剤のマウス経口投与試験等を行い、その有用性を試験することで、将来、ボツリヌス無毒タンパク質成分を応用した新しいタンパク質薬物送達システムを確立することが出来ると考えられる。
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