筋無力症は運動神経を介した骨格筋収縮制御の異常を伴う疾患であり、自己免疫や遺伝子異常による神経筋接合部(NMJ : neuromuscular junction)の形成・機能不全によって発症する。筋無力症に対する治療法はNMJにおける神経筋伝達の制御療法や重症筋無力症等に対する免疫抑制療法などであるが、共に根本的な治療法ではなく、新たな分子基盤による治療法の開発が求められている。現在、NMJの形成・機能不全によって発症する筋無力症において、NMJの形成シグナルを増強する治療法は確立されていない。この様な状況の下、受入者はDok-7と名付けたアダプター様分子がNMJ形成シグナルに必須の起点として機能していることを発見し、Dok-7の強制発現がNMJの形成を亢進することと、ヒトDOK7遺伝子の異常が先天性筋無力症の原因となることを解明した。そこで本研究においては、NMJ形成シグナルの増強による筋無力症の治療技術の開発を目的として、筋無力症のモデルマウスの作出とNMJ形成シグナルの増強がその病態に与える効果の検証を主たる目的とした。 当該年度において代表者は、前年度に作出した筋無力症モデルマウスの運動機能の解析を実施し、ヒト筋無力症様の病態を確認した。さらに、当該モデルマウスにおけるNMJ形成シグナルの増強がその病態に与える影響を検討したところ、有意な運動機能の改善を認めた。これらの知見は、NMJ形成シグナルの増強がNMJ形成不全を伴う筋無力症に対する新たな分子標的治療の基盤となりうることを示すものである。
|