研究概要 |
採用3年度目は,報告者が研究を続けてきたアミメアリ「裏切り系統」の研究と,アミメアリにおける問題点を敷術した数理モデル研究において,以下の進展があった. 【アミメアリ研究】社会性昆虫アミメアリには,社会性をもたない遺伝的系統(裏切り系統)が野外のコロニーに混在していることが知られている.室内飼育実験のデータを整理し,遺伝マーカーを用いた親子判別のデータを追加した上で、国際誌に論文を投稿中である.階層ベイズモデルを用いた,野外データからの個体群パラメータ推定に関しては,昨年度よりも精度の高い推定結果を得ることに成功した.新たに得られた推定値を用いることで個体群動態シミュレーションを行った結果,裏切り・通常両系統が長期にわたって共存できる条件を絞り込むことができた.さらに,個体群動態のモデルに表現型への突然変異を組み込んだ進化シミュレーションを行い,裏切り・協力系統が祖先集団から分断選択によって種分化する状況がありうることを発見した.これは従来の社会進化理論に新たな視点を与える可能性があり,今後継続して研究を行っていく予定である. また,本年度は次世代シーケンサを用いて,裏切り・通常両系統の成虫における遺伝子発現プロファイルデータを取得した.解析は次年度以降の主たる課題となる. 【数理モデル研究】量的遺伝モデルを用いて,社会性膜翅目における女王・ワーカーの分化(カースト決定)に関する共進化モデルを構築した.利己性とそれへの制裁が拮抗的に共進化するモデルは,アミメアリの裏切りとも関連する社会進化の基本モデルである.論文はEvolution誌に掲載された.共進化の観点は,社会進化においては従来あまり注目されてきていなかった背景があり,上記研究以外にもいくつかの解析を平行して行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請課題のアミメアリ研究に関しては,本年度は以前に取得したデータの不備を克服し,国際誌に論文を投稿することができた.また,新たに次世代シーケンサを用いた遺伝子発現プロファイルのデータも取得した.さらに,理論研究に関しても進化シミュレーションで新たな成果を得た.アミメアリ研究を敷衍した,社会進化における拮抗関係の理論モデルに関しては,女王・ワーカーの発生に関する理論研究を著名誌に1報掲載することができ,引き続き論文を投稿できる状態にある.
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今後の研究の推進方策 |
アミメアリ研究に関しては,野外データからの個体群生態学的パラメータの推定にベイズ推定の手法も用いることに成功した.「裏切り系統」の進化に関するより精緻な予測を得るために,今後シミュレーション手法の改良を行つていく予定である.また,次世代シーケンサを用いた研究については,本年度はRNAseqの生データ取得までしか至らなかったため,次年度以降,データ解析を継続して行っていきたい.
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