研究概要 |
リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)は,疎水性低分子輸送蛋白質群であるリポカリンファミリーに属する蛋白質であり,様々な疎水性低分子に対して高親和性に結合する。申請者は,L-PGDSを用いた難水溶性薬剤に対するドラッグ・デリバリー・システムの構築を目指している。抗癌剤SN-38は,難水溶性であるため,臨床において,プロドラッグであるイリノテカンが用いられている。しかし,イリノテカンのSN-38への転換効率に個人差があること,イリノテカンはSN-38に比べて抗腫瘍活性が低いこと,重篤な下痢を引き起こすことから,SN-38の直接利用が望まれる。本研究では,L-PGDSによりSN-38を可溶化し,輸送することを目的とした。 L-PGDSに対する難水溶性抗癌剤SN-38の結合親和性を調べるために,等温滴定型熱量測定(ITC)を行った。その結果,L-PGDSはSN-38を2分子結合し,解離定数K_dは59.2μMであることが分かった。また,SN-38のPBS中の濃度は,2mM L-PGDS存在下において,非存在下と比較して,300倍に上昇することが明らかになった。さらに,ヒト大腸がん細胞Colo201をヌードマウスの皮下に移植した異種移植モデルにおいて,腫瘍の体積が150mm^3に達した日から1日おきに8回,PBSまたはSN-38/L-PGDS複合体を投与し,腫瘍体積変化を測定した。その結果,PBS投与群と比較して,SN-38/L-PGDS複合体投与群は,腫瘍成長が有意に抑制された。 本研究により,L-PGDSはSN-38の直接利用を可能にする有用な輸送体であることが判明した。
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