研究概要 |
雨天時は,降雨等による環境の変化によって,視覚障害者が危険に晒されている.特に,降雨時に発生する"傘の雨滴衝撃音"によって視覚障害者や聴覚障害者が普段利用している聴覚情報の利用が妨げられており,道路横断時の自動車接触事故経験を示す視覚障害者が多い等,生命に関わる重要な問題であり,解決策の提案は急務である.本研究では雨天時の視覚障害者の歩行の安全を確保するために降雨騒音低減傘の開発,検証実験と評価指標の検討,視覚障害者用補聴器の開発,法制の整備等を行う.視覚障害者のニーズを配慮した雨天時の歩行環境整備として,以下に示す整備を実施した. ◆降雨騒音低減傘の開発/検証実験と評価指標の検討(概要:これまで,降雨騒音低減傘のための基礎的検討を行ってきたが,これらの知見を踏まえ,実用化に向けて制振対策と効果の確認旧標値への追従性等),物性値の測定を行う.また,視覚障害者によるユーザビリティに関する検証実験は大変重要である) 昨年度及び一昨年度の二年間は,特許修正,製品化へ向けた傘の軽量化,降雨騒音レベル測定,評価実験を実施した.さらに,視覚障害者用補聴器の開発(概要:高度技術支援システム等の新たなデバイスを用いた福祉機器による移動支援を望む視覚障害者のために,視覚障害者用補聴器の開発と提案を行った.雨天時に,傘の雨滴衝撃音等の降雨騒音にマスキングされずに,必要な聴覚情報を聞き取り易くするための補聴器の開発と補聴器のフィッティングである.さらに,どれくらい降雨騒音によってマスクされているかを明らかにするためにマスキング計算モデルの構築を行った. ◆視覚障害者用聴覚情報に係る法制の整備と工業規格化,国際標準化(概要:わが国における視覚障害者支援に関する法制では,雨天時等の環境変化に応じた整備指針がないことが問題の一つである.雨天時の歩行は視覚障害者にとって危険であることから,法制の整備や視覚障害者用サイン音の設置・運用に関する標準化は重要な課題である)本研究では,法整備のためのデータ収集を実施した.◆降雨騒音傘を例とした晴眼者の音環境の価値評価に関する経済評価実験:開発した降雨騒音低減傘の販売価格を設定する際の参考にすること及び,低減傘から得られる様々な効用(メリットなど)を経済評価実験により定量化することを目的とした.対象はまずは,低減傘の主な利用者ではない晴眼者を対象として実験を実施した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,屋外空間における降雨騒音の聴取妨害に焦点を当てているが,屋内(室内)においても同様の問題が生じていることが分かった.特に災害発生時における防災無線等が聞こえない,聞こえなかった等の意見が多く寄せられており,今後は屋内での降雨騒音による聴取妨害等の影響についても重要な課題であると言える.これらの課題に基づき今後も研究を進める予定である.
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