研究課題
特別研究員奨励費
有機伝導体λ-BETS_2FeCl_4は磁性と伝導の相転移がカップルした常磁性金属(PM)-反強磁性絶縁体(AFI)転移をT_<MI>=8.3Kで起こす。この系では局在Fe 3dスピンはAFI相でも大きなスピン自由度を残しているにもかかわらず、Feスピン濃度はπスピン系が作る内部磁場の強さとPM-AFI転移温度を決定していることが明らかになった。本年度はこの相転移におけるFeスピンやπ-d相互作用の役割を解明するため、良質な微小単結晶試料を用いた比熱測定を行った。1)PM-AFI転移近傍での内部磁場の成長過程 相転移直後でも大きなスピン自由度を残しているFeスピンエントロピーはπ電子系で形成される反強磁性の内部磁場の強さに敏感に依存する。特に転移近傍の温度領域では内部磁場の急激な成長の様子がFeエントロピーから定量的に見積もられ、PM-AFI転移における自発磁化の温度依存性が明らかになった。その結果、π電子系ではその低次元構造の影響を受け2次元反強磁性秩序を形成していることが転移の臨界現象から明らかとなった。このような低次元スピンゆらぎの大きな系で磁気転移を可能にするためには磁気異方性が重要であり、π-d相互作用による異方性の導入がPM-AFI転移実現の鍵である可能性を示した。2)π-d相互作用を系統的に変えた系のPM-AFI転移 FeCl_4対アニオンのClをBrに置換することでπ-d相互作用の強さを系統的に変えることができる。担当者はこの系のClとBrの割合を変えながら比熱と電気抵抗の温度依存性を詳細に調べた。比熱測定に関しては、本年度購入した高感度ナノボルトメータを導入することにより、単結晶(50μg)で比熱測定が可能になった。これによりPM-AFI転移温度で非常に鋭い比熱ピークを観測し、この相転移がπ-d相互作用の大きさに強く依存するものの、その不均一性の影響を受けないことがわかった。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 81 号: 5 ページ: 53601-53603
10.1143/jpsj.81.053601
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