研究概要 |
本研究の目的は, 日本周辺の照葉樹林の中でシイ林とカシ林の優占樹種およびそれに種特異的に寄生する複数の植食性昆虫に注目し, 植物と昆虫両者を含めた系としてのシイ林およびカシ林の分布変遷の比較・解明を目標とする。 平成25年度に行った研究および得られた成果は以下である。 1. シイ類の葉緑体DNA多型の解析 シイ類の葉緑体DNAの塩基配列多型を30領域についてスクリーニングし, 比較的多くの変異が検出された4領域について解析を行った。その結果, 九州以北地域内ではほとんど多型が検出されなかった。そこで, さらに葉緑体のSSRマーカー24対について多型を探索し, 比較的多くの多型が得られた6対について, 遺伝的変異の地理的パターンを解析した。その結果, 九州以北地域内で東集団と西集団間での遺伝的分化がみられた。これは, これまでに核DNAのESTに由来するSSRマーカーを用いて解析した結果とほぼ一致する結果である。 2. ノミゾウムシ類の系統解析 シイの新葉に潜葉するヒラセノミゾウムシについては, 日本の20地点でそれぞれ約16個体を採集し, mtDNAの約2300塩基の配列を解析した。集団間のハプロタイプ頻度の比較から遺伝距離を計算しデンドログラムを作成した。シイとシイシギゾウムシと同様, シイとヒラセノミゾウムシについても, それぞれの種内の集団間の分化パターンがほぼ一致することが示された。本結果により, シイ林に生活する種群が共通した分布変遷を経てきたことが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
日本の照葉樹林の優占種であるシイについては, これまで葉緑体DNAの変異量が少なく, 地理的変異パターンが得られなかった。本研究では, 葉緑体SSRマーカーを使うことで多くの種内多型が得られ, 遺伝的分化パターンが得られた。
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