研究課題
特別研究員奨励費
本研究では、温暖化によって樹木や森林がどのように変化しつつあるかを年輪情報から明らかにすることが目的である。これまでの結果から、北海道大学苫小牧研究林のミズナラでは、春先の気温上昇によって幹の形成層活動の再開が早まり、孔圏幅が増大していることが示された。そこで、このような長期変化のメカニズムを明らかにするため、幹の年輪の炭素および酸素安定同位体比の分析を行った。幹のセルロースは葉での光合成産物から合成されるため、幹の年輪セルロースの炭素および酸素の安定同位体比から葉の光合成生産の変化を推察することができる。そこで、1970~2004年までの各年について孔圏および孔圏外のセルロースを抽出し、質量分析計を用いて炭素・酸素安定同位体比を測定した。測定の結果、孔圏外の炭素・酸素安定同位体比の傾向から孔圏外形成時期の光合成生産は長期的に増加しつつあることが示唆された。孔圏外形成時期は光合成が盛んであり、この時期の光合性生産の増加は幹の肥大成長の増大につながりうる。一方、孔圏形成時期は光合成開始前にあたり、孔圏の形成は貯蔵炭素に依存する。孔圏の各安定同位体比の傾向は孔圏外とは異なる傾向にあった。つまり、春先の貯蔵炭素の利用の仕方にも何らかの変化が起きていることが示唆された。まとめると、ミズナラでは近年の温暖化に伴って光合成生産が増えているばかりでなく、春先の気温上昇に伴って形成層活動再開の開始やその後の貯蔵炭素の利用形態が変化し、成長の生理メカニズム自体が変化しつつあることが示唆された。このような変化は、森林の生産性を長期にわたって変化させ、森林の生産性の長期予測の結果にも大きく影響する。このように、本研究の結果から森林の生産性の長期変化における重要なメカニズムが明らかとなり、今後の森林の生産性の長期予測に貢献する意義のある成果を得た。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主目的の一つである樹木の肥大成長の長期変動パターンを検出することができた。また、このメカニズムの一つとして温暖化などの気候変動に伴う炭素および酸素安定同位体比の長期変動を解析し、生理的な変化を明らかにした。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
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