研究概要 |
本年度は、これまでに収集した担子菌門日本産アンズタケ目に含まれる分類群について、分子生物学的手法および顕微鏡学的特徴の調査による種の同定を目的とした。アンズタケ目菌類100標本より、核の内部転写スペーサー(ITS)領域,リボソーム大サブユニット(LSU)および小サブユニット(SSU)領域、RNAポリメラーゼIIサブユニットB2(Rpb2)領域において、計180シークエンスデータを得た。これらのシークエンスデータを用い、属レベルの分類群について系統解析を行った結果、日本産種はアンズタケ属8クレード、クロラッパタケ属6クレード、カレエダタケ属8クレード、カノシタ属6クレードに少なくとも分かれることが明らかとなった。また、同目に所属するカレエダタケ属、カノシタ属およびアンズタケ属において新分類群の存在を見出した。日本産トキイロラッパタケはヨーロッパ産と子実体色が明らかに異なっていたが、本研究の結果からこれらは同種であることが明らかとなり、子実体色に幅のある種であることが示唆された。これにより、日本におけるトキイロラッパタケについて新たな知見を得ることが出来た。また、系統解析で見出された主要な分類群について、透過型電子顕微鏡を用いて、菌糸隔壁部孔帽の超微細構造(SPC構造)を明らかにした。この成果は日本菌学会第56回大会で発表した。さらに、核DNAの複数領域(LSU、SSU、RPB2領域)を用いた系統解析による日本産標本を含めた本目内部の分類群の検討では、新たにSistotrema subtrigonospermumの系統学的位置を明らかにした。SPC構造は目レベルの分類形質として従来用いられていたが、SPC構造を用いた祖先形質推定により、本構造は科レベルの分類形質として有用であることが示唆された。
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