研究概要 |
本研究者らは学習障害児(LD児)における眼球運動障害と聴覚認知傷害について研究を続けているが、平成11年度は各々についてさらに詳細に検討した。 (1)眼球運動 : 本年度は衝動性眼球運動(saccade)の他に滑動性眼球運動(smooth pursuit)を健常児とLD児について調べた。Smooth pursuitでは、特に初期成分を検討する目的でRashbassのstep-ramp刺激を用いた。LD児では、初期の速度を形成する能力が低下しておりまた、視覚のフィードバックを要する定常状態でもゲインが有意に低下していた。また、saccadeのコントロールを調べるmemory guided saccade taskでもLD児は、反射性のsaccadeの抑制困難と潜時の延長、視標との誤差の増大がみられた。これらのことから、LD児では眼球運動の制御に関与する前頭眼野、前頭前野の傷害が示唆される。 (2)聴覚認知 聴覚認知を調べるためにミスマッチ陰性電位(MMN)を用いた。防音室内で坐り、ビデオを見せながらヘッドホーンにより標準刺激として/da/、逸脱刺激として(a)最も弁別の難しい/ga/,(b)比較的容易な/i/(c)1000Hz純音を混合して与え、EEGをFz,Cz,Pz,C3,C4から導出し加算処理した。結果は、対照群では全ての逸脱刺激に対してMMNの出現が見られたが、LD群では/ga/ではほとんど出現していなかった。開始潜時は対照群では/ga/で潜時の延長が見られたが、LD群では/ga/の他に/i/でも延長が見られた例が多かった。このことは、LD群では明らかな逸脱刺激であっても大脳聴覚野レベルでの言語音どおしの自動弁別に問題があることを示唆している。
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