本年度は、西日本の縄文・弥生移行期の社会における、呪術具の役割とその様相を検討するため、基礎的な集成作業を行った。対象は石製呪術具に絞ったが、土偶等の土製呪術具についても補完的に検討した。集成作業は、中四国地域・近畿地域・九州地域に分け、各地域の研究者の協力を得てほぼ各地域の全体像をつかむことができた。これまで、西日本の呪術具に関しては、晩期段階での西北九州・近畿・北陸・中部東海各地域での呪術具の増加について、外来文化に対する文化的抵抗の最前線での祭祀強化を示すという小林達雄氏による「祭祀強化説」が主張されていた。しかし、東海以東の地域については具体的な様相がわかっているものの、近畿地方以西の地域における具体相につていは、実はよくわからないというのが現状である。そこで、今回はこうした具体相の理解への基礎的作業として集成を行ったわけである。そして、集成作業の結果、主に次のような重要な点が明らかとなった。 1.縄文時代中期以降、西日本各地に中部・北陸系の呪術具が拡張し、後晩期段階に急増する。 2.中四国地域では、石棒の他、石冠、独枯石、十字形石器、綿刻礫、石偶など予想以上に多種類の石製呪術具が分布する。 3.晩期後半以降、中四国では結晶片岩製石棒が急増し、特に徳島から南四国に多数分布する。 4.出土点数からみた場合、縄文時代全般を通じて山陰・南四国地域では一定量分布するが、瀬戸内海沿岸の地域では、極めて少ない。 5.弥生時代に入っても、結晶片岩製石棒は残存し、弥生時代の祭祀に取り込まれている。 6.弥生時代前期になり、縄文時代に石製呪術具が少なくなかった地域に男根状石製品(オハゼ形石製品)が分布しはじめる。 異常の結果を受けて、集成作業をもとにデータベースの作成を行った。
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