研究概要 |
当該研究は,光インサーション材料による構造規制界面の構築とそれによる新規な界面構造の機能発現過程を電気化学測定と組み合わせたラマン分光法やマイクロ電極法により追跡し,リチウムイオン2次電池材料における光充電の可能性追及とその機能発現のメカニズムを分光学的手法により解析することが目的である.当該領域で用いたラマン分光法は,非常に浅い測定深さを有しており,電気化学における根源的問題である固-液界面解析に有用な研究手法である.光インサーション反応は,光エネルギーを化学エネルギーに変換する独創的発想であり,この研究成果より,遷移金属化合物に新たな機能を有する界面構造が創製されると考えている.主眼となる研究手法は,その場ラマン分光法とマイクロ電極法である.特に静電噴霧法で作製したLi_xMn_2O_4薄膜電極を研究対象とし,光照射(インサーション)と対応した界面の極微細構造変化や格子震動変化を追跡し,光充電過程をミクロスコピックな観点から記述することを試みた.さらに複数の励起波長に対応したスペクトル測定を行い,電極材料のバンドギャップを意図したスペクトル解析を行った. はじめに有機電解液中におけるLi_xMn_2O_4薄膜電極のサイクリックボルタモグラム(CV)の測定を行った.Li_xMn_2O_4へのリチウムイオンの脱挿入反応に起因した電流応答が見られている.このCV測定を行いながらスペクトル測定を行なった.その結果,Li_xMn_2O_4中のxの減少に伴い,スペクトルに変化が見られ,新たなラマン線が出現した.この実験結果は,有機溶液中におけるLi_xMn_2O_4その場ラマン測定に初めて成功したことを意味している.さらに,スペクトル変化はLi_xMn_2O_4の相構造の変化により説明することができている.また,ラマンスペクトルの励起波長依存性についても検討を行なった.これは,Li_xMn_2O_4のバンドギャップを意図したスペクトル測定である。励起波長を514.5nm(2.48eV)から647.1nm(1.97eV)とすると,格子振動に起因するラマン線の散乱強度が減少した.これは,Li_xMn_2O_4の相変化に伴い,バンドギャップが変化したため,スペクトルの励起波長依存性が見られたと考えている.また,ラマン散乱強度は振動数に比例して減少することが知られており,これが,当該成果で得られた実験結果と合致することも否めない.どちらが優位であるかを現時点で判断できないが,当該課題で得られた励起波長を変化しながら測定したその場ラマンスペクトルより得られた知見は,壮大な光電気化学反応に大きな影響を与えると確信している.本研究は"光充電可能な2次電池"として大きな可能性を秘めており,今後さらなる研究が必要であろう.現在の携帯機器に代表されるような新型2次電池に新たな側面を構築することにより,新たな新技術が生まれだすと考えている.
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