研究概要 |
まず,Cu(100),(110),(111)面の過塩素酸水溶液中におけるサイクリックボルタモグラム測定を行い,Cuのインヒビターであるベンゾトリアゾール(BTAH)を加えた場合と加えなかった場合の比較を行なった。その結果,Cu(100)面,Cu(110)面の場合はBTAHの添加によりCuの溶解反応及び水素発生反応が抑制されることがわかった。またCu(111)面の場合は同じくBTAHの添加によりCuの溶解反応が抑制されたが,(111)面に特有な過塩素酸イオンの吸着脱着反応や水素発生反応は抑制されなかった。これはCu(111)面では比較的卑な電位領域においてBTAHが吸着していないことを示していると考えている。 次に,原子間力顕微鏡を用いて,過塩素酸水溶液中におけるCu(100),(110),(111)各表面の原子スケールでのその場観察を行い,BTAH添加の有無による比較を行なった。まずBTAHを添加していない溶液中では,主に基板の原子構造が観察された。またBTAHを添加した溶液中では添加していない溶液では観察されなかった新しい構造が観察された。また基板の面方位によって観察される構造が異なることから,BTAHが基板と一定の方位関係を持って吸着しているため観察されたと考え,Cu表面へのBTAH吸着構造の提案を行なった。 また,BTAH吸着膜の耐食性を評価するためにBTAHを含む溶液中におけるアノード分極特性の評価を行なった。その結果,面方位では明確な差は見られなかったものの,過塩素酸水溶液中の結果と比較して硫酸水溶液中の方が銅の溶解反応に伴うアノード電流が大きいことがわかった。これについては,表面への吸着力が過塩素酸イオンより強い硫酸イオンがBTAHの規則的な吸着を阻害し,その結果欠陥の多い膜となるためであると考えている。
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