研究概要 |
我々はシリカゲル表面に単なる光学活性体を担持するという方法ではなく不斉有機分子を鋳型としてアキラルな不斉受容体に構造転写する新規な不斉場構築法を見出した. 本研究では担持シリカゲルとして,均一な30Aの細孔を有する分子サイズ選択能のあるメソポーラスシリカゲル(FSM-16)を,また不斉受容体にはビフェノール誘導体5,5'-bis(allydimethylsilyl)-2,2'-biphenol1を用いた.1はフェニル基間の炭素-炭素結合が自由回転するため光学不活性な化合物である.しかし,光学活性な鋳型となるビナフチルジカルボン酸ジクロリド(R)-2と環状ジエステル3を形成させることにより1の立体配座を固定できる.こうして得た3をメソポーラスシリカゲル(FSM-16)とトルエン中,60時間還流すると3担持FSM-16(4)が得られた.4は,シリカゲルとの結合を持つため鋳型分子であるビナフチル部位を切り放してもビフェノール誘導体は光学活性体としてシリカゲル表面に残る.実際に,不斉転写に用いた鋳型分子(R)-1の切断除去のため水素化アルミニウムリチウムを用いて還元したところ,還元体である2,2'-ビス(ヒドロキシメチル)-1,1'-ビナフチルのみを収率よく回収した.(R)-1切断後のFSM-16(5)は^<13>CCP/MASNMRより2の構造は持たず1の骨格のみを有することが明らかとなった.またラセミ体のビナフトール吸着実験から不斉場をもつことも確認された.この新規の不斉場構築法は1のような潜在的軸不斉をキラルな鋳型分子を用いて発現させたもので,鋳型分子の回収再使用により効率的な不斉情報の伝達法として注目できる.
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