研究概要 |
面不斉をもつフェロセン配位子はいくつかの不斉触媒反応において優れた不斉触媒活性が認められており、また工業的に利用されているという報告もある。しかしながら、C2対称の不斉フェロセン配位子や面不斉のみを有するフェロセン配位子に関する研究はほとんど行われていない。そこで、本研究では、面不斉のみが不斉環境に及ぼす効果を検討すべく、C2対称のP,P-配位子1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-2,2'-ビス(メトキシカルボニル)フェロセン1を合成し、不斉触媒反応へ応用した。 Pdを用いる不斉アリル置換反応、特に1,3-ジフェニル-2-プロペニルアセテート2の炭素求核置換反応は重要な不斉触媒反応として近年注目されている。この反応に対してN,N-配位子とP,N-配位子が高い光学収率を与えたという報告はこれまでにいくつかあったが、P,P-配位子を用いて良い結果を得たという報告例は少ない。また、環状の基質、2-シクロヘキセニルアセテート3については、置換基のかさ高さが少なく、立体効果が期待されないため、一般に良い結果は得られていない。そこで今回合成したC2-対称のP,P-配位子1を用いて2、3の炭素求核置換反応を検討したところ、2の場合は92%ee、3の場合は83%eeと非常に高い光学収率が得られた。これらの結果から、面不斉のみでも十分優れた不斉環境を構築できることが明らかとなった。 また、脱水素アミノ酸誘導体の不斉水素化反応はキラルなアミノ酸が合成できるという点から、非常に高い利用価値があると期待される。そこで、配位子1を用いてモデル反応であるα-アセトアミノケイ皮酸及びそのメチルエステルの不斉水素化反応について検討した。その結果、条件を変えても光学収率は40%以下と、あまり良い結果は得られなかったが、用いる基質を酸からメチルエステルに変えると生成物の絶対配置が反転するという、これまでには報告例のない興味深い結果が得られた。今後、配位子の置換基を変えることなどによりさらなる発展が期待できると思われる。
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