研究概要 |
これまでに、十分に捻れた1,3-ジエンとしてオルト位に2つのメチル基を持ったシス-スチレン誘導体Aを設計・合成し、強塩基に対する反応性を検討した。その結果、ビニルプロトンがベンジルプロトンに優先して選択的に引き抜かれビニルアニオンを生成することを、重水やアルデヒドとの反応、及び分子内シリル基の転位で確認した。これはベンジルプロトンより反応性の高いビニルプロトンの存在を示した極めて希な例である。 そこで本年度は、ねじれの度合いの異なる2つのシス異性体B、Cと3つのトランス異性体を合成し、それぞれのビニルプロトンとベンジルプロトンとの強塩基に対する相対的反応性、電子吸収スペクトルの様子、さらに立体配座解析に基づく捻れの度合いについて検討し、捻れの度合いとビニルプロトンの反応性について考察した。トランス体では捻れの度合いに関係なく、いずれの場合もベンジルプロトンが選択的かつほぼ定量的に引き抜かれた。これは側鎖の4級炭素についた置換基により、ビニルプロトンが大きな立体障害を受けているためと考察される。一方シス体の場合には、捻れの度合いとビニルプロトンの反応性が明らかに対応していた。すなわし、極端に捻れたAでは、ベンジルプロトンに対してビニルプロトンのみが引き抜かれ、大きく捻れているBでは圧倒的にビニルプロトンが選択的に引き抜かれていた。これに対し、電子スペクトルで251nmに極大吸収を示すCでは、ビニルプロトンとベンジルプロトンはほぼ1対1の割合で引き抜かれた。 以上の結果は明らかに、捻れた1,3-ジエンに於けるビニルC-H軌道は、隣接する二重結合のπ軌道とσ-π軌道相互作用することによって活性化されると結論づけられる。
|