研究概要 |
嵩高いアダマンチル基とt-ブチル基が結合したテトラチオラン(1)をジメチルジオキシラン(2)で酸化したところ,ジチイランオキシド(3),チオケトン,スルフィンが得られた.本反応の条件を詳細に検討した結果,塩化メチレン-アセトン中,-20℃で(1)に4当量の(2)を反応させたのち,同温度で溶媒を留去し,得られた固体を-20℃で塩化メチレンとヘキサンから再結晶すると,主成分として淡黄色板状晶と副成分として黄色プリズム晶が得られた.これら結晶の1HNMRを-10℃で測定したところ,全く同じスペクトルを示した.これら結晶を機械的に分離し,黄色プリズム晶をX線結晶構造解析を行った結果,テトラチオラン2、3-ジオキシド(4)であることがわかった.(4)は,vic-ジスルホキシドとして単離された初めての化合物である.主成分の淡黄色板状晶は,X線結晶構造解析より,72%eeの(4)であることがわかった.(4)は,結晶状態では室温で安定であるが,溶液中では-10℃以上で分解し,(3),(1),および単体硫黄を与えた.(3)の生成は,活性種"S2O"が(4)の分解反応で発生することを示唆する.S2Oを捕獲するために各種トラップ実験を行った結果,ジエン存在下の(4)の分解反応ではS2Oトラップ生成物である1,2-ジチイン1-オキシドが87%,(3)が86%の収率で得られた.また,ノルボルネン存在下での(4)の分解反応ではトリチオランテトラチオラン(5)が85%,(3)が88%の収率で得られた.(6)は,S2Oが不均化して生成したS3がノルボルネンによりトラップされ生成した化合物である.
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