研究概要 |
我々は、メタラジチオレン環という金属キレート環の共役場におかれた金属-硫黄(インターエレメント)結合の特性を明らかにすべく、芳香族性と不飽和性に基づく特異な反応を研究してきた。本年度は、メタラジチオレン環の芳香族性を、メタラジチオレン錯体[CpCo(S_2C_2X,H)] と炭素ラジカル発生剤である2,2-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)との反応に注目し、以下の結果を得た。1、AIBNと[CpCo(S_2C_2Ph,H)](1)との反応(等量比:1/AIBN=0.55)では、アルゴン雰囲気下、ベンゼン溶媒中、3時間加熱還流すると、1-シアノー1-メチルエチルラジカルがコパルタジチオレン環上に置換した錯体2とシクロペンタジエニル(Cp)環上に置換した錯体3が、それぞれ15%と5%の収率で得られ、コバルタジチオレン環の芳香族性に起因したコバルタジチオレン環への置換反応が優先的に起こることがわかった。本反応におよぼす錯体の置換基(X)効果は、Me>Ph>COOMeとなり、電子密度の高いコバルタジチオレン環ほど、置換活性であった。2.AIBNと[CpCo(S_2C_2X,H)](1)との反応に、Bu_3SnHを錯体1に対し0.25等量添加すると、Cp環への置換が優先的に起こり置換反応の位置選択性が逆転するという特異的な現象が発見された。AIBNの量を増やしていくと、置換生成物の総量は若干減るものの、この現象は顕著となり、2.0等量(反応時間5h)用いると錯体3(15%)のみとなった。なお、AIBNとCp環への置換のみが期待される2置換体の錯体[CpCo(S_2C_2X,H)]との反応では、Bu_3SnHをPh_3SnHに代えてもCp環への選択性は確実に増加していることにより、錯体とBu_4Snとの相互作用の存在が示唆されよう。3、Bu_3SnHの添加効果を他の14族元素の水素化物に展開したところ、Cp環への位置選択性(ratio/3:2)は、無添加(19:81)<(Bu_4Sn(32:68))<Bu_3SiH(36:64)<Bu_3GeH(75:25)<Bu_3SnH(100:0)となった。
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