研究概要 |
スルフェニルヨージドは、人の甲状腺におけるヨウ素反応やヨウ素によるチオールの酸化反応の反応中間体として重要な役割を果たしている。しかし、スルフェニルヨージドはジスルフィドとヨウ素分子への不均化反応が非常に起こり易いため、不安定でこれまで室温で安定なスルフェニルヨージドは知られていない。本特定領域研究の昨年度の研究で、分子間反応を起こして分解し易いセネレン酸が我々の開発したボウル型分子4-t-ブチル-2,6-ビス[(2,2",6,6"-テトラメチル-m-テルフェニル-2'-イル)メチル]フェニル基(Bmt基)で立体保護することにより安定化されることが示されたので、本年度はその安定化効果を活用してスルフェニルヨージドの合成を行った。チオールBmtSHをトリエチルアミンの存在下ヨウ素で酸化するとスルフェニルヨージドBmtSIが茶褐色結合として定量的に得られた。BmtSIは非常に安定で結晶状態および溶液中で加熱しても変化せず、またBmtSHと反応させても全くジスルフィドBmtS-SBmtは生成しない。このことは、ボウル型立体保護基が高反応性のスルフェニルヨージド基を極めて効率よく保護していることを示す。しかし、BmtSIに立体的に小さいチオール、例えばブタンチオール、を作用させると瞬時に対応するジスルフィドBmtSS(n-Bu)を与えるので、BmtSI自身は高い反応性を持つことが明らかになった。BmtSIの構造はX線結晶解析により決定された。S-I結合はBmt基の中央のベンゼン環とほぼ直交し、その距離は2.386Åであった。分子間のS-I距離は6.65Åで分子間での相互作用は存在しないことが示された。2,4,6-ブチルフェニル基(Mes^*基)は優れた立体保護基として知られているが、Mes^*SHのヨウ素による酸化ではMes^*SIは単離できず、Mes^*SSMes^*が生成することも明らかにした。このことは、Bmt基が非常に優れた立体保護基であることを示している。
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