研究概要 |
エイズ治療薬の候補として、HIV感染の最初のステップである吸着からウイルスの細胞内への侵入を阻止する物質の開発および活性評価を行った。HIV感染では、ケモカインレセプターであるCXCR4やCCR5がコレセプターとして働き、これらを標的とした抗HIV薬の開発研究が盛んに行われている。事実、CXCR4のリガンドであるSDF-1やCCR5のリガンドであるRANTES、MIP-1α、MIP-1β、あるいはレセプターのアンタゴニストがin vitroの感染系でHIV感染を阻止することが、多数報告されてきている。さらに、ヘパラン硫酸や硫酸化デンドリマーなどがHIV感染のコレセプターに作用して、その感染性に影響することも報告されてきている。合成ペプチドのT22([Tyr^<5,12>,Lys^7]-polyphemusin II)や、さらに分子量を小さくしたT134、T140という抗HIV活性を示すものを見いだした。T134は抗CXCR4抗体やSDFがCXCR4に結合するのを阻害することから、CXCR4のアンタゴニストとして作用していると考えられる。その他にもT134と1次構造に共通点のないバイサイクラムAMD3100やD型アルギニンのポリマーALX40-4Cなどの低分子化合物がCXCR4のアンタゴニストとして抗HIV活性を持つことが報告されている。さらに我々は、AMD3100に対する耐性ウイルスを用いた研究で、これらの物質の間に交差耐性ないことを明らかにした。これらの低分子物質はコレセプターCXCR4を作用点とした抗HIV薬の有力な候補として考えられている。その他にも、HIVとCCR5との結合阻害能を持つするペプチドモチーフを決定するため、抗CCR5モノクローナル抗体を鋳型としたバイオパンニング法でファージライブラリーから結合性の強いものを選別し、その結合性の確認をELISA法で行った。これらのCCR5様モチーフは、R5HIV-1の感染を特異的に抑制し、β-ケモカインとの結合阻害も見られた。これらの合成ペプチドはHIV感染コレセプターとの結合阻害を作用点とした抗HIV剤としての可能性が考えられた。今後は、これらのペプチドと糖との複合体など、より有効なエイズ治療薬のデザインと合成を計画している。
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