研究概要 |
生体異物(毒物)が生体内に吸収されると肝臓でグルクロン酸に抱合され、小腸を経て排出(解毒)されるが、小腸にはその抱合体を分解する酵素β-グルクロニダーゼがあり、遊離した異物は腸管から再吸収され肝臓に戻る。当研究室ではβ-グルクロニダーゼの活性を阻害するD-グルカル酸およびその誘導体を経口投与により独占的に腸内に送り込むことができるように、これらを側鎖に導入した新規工分子(1, 2, 3) を設計・合成し、βグルクロニダーゼ活性の阻害に及ぼす効果を調べてきた。本研究では、D-グルクロニダーゼ酸類縁分子の主鎖への結合様式の異なる高分子(4, 5, 6) を新たに合成し、その認識部位を探索して酵素β-グルクロニダーゼの活性の阻害機能の制御を試みた。以前に合成した高分子(1, 2, 3) は側鎖のD-グルカル酸誘導体が6位で結合しているのに対し、本研究ではD-グルカル酸類縁分子が1位で結合した新規糖鎖高分子(4, 5, 6) を得た。D-グルカル酸部位を1位で側鎖に結合したスチレン単位を約30%含む、アクリルアミドとの共重合体4を用いて、D-グルクロン酸のp-ニトロフェニルグリコシド(7)の加水分解を追跡したところ、6位で結合した共重合体1を用いた場合より高い阻害率を示した。糖単位にカルボキシル基をもたないスチレン誘導体とアクリルアミドとの共重合体(6, 3) は糖鎖の高分子への結合位置にかかわらず、阻害効果をもたなかった。一方、糖単位にカルボキシル基をもたないスチレン誘導体とアクリル酸とのラジカル共重合体(5, 2) は、糖鎖を1位、6位のいずれで高分子鎖に結合していても、高い阻害率を示した。これらの結果から、阻害には糖鎖の近傍にカルボキシル基が存在することが必要であることが明確になった。また高分子阻害剤(1)の場合は、β-グルクロニダーゼを拮抗的に阻害するのに対し、D-グルカル酸の1位で高分子鎖に結合した阻害剤(4)およびカルボキシル基を糖質部位内ではなくその近傍にもつ高分子阻害剤(2, 5) の場合は不拮抗型阻害をおこすことがわかった。
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