研究概要 |
準結晶中のフェイゾンの熱的挙動を調べる目的でAl-Pd-Mn系正20面体準結晶,Al-Cu-Co系正10角形準結晶およびAl-Pd-Fe系近似結晶に対して高温での比熱測定をDSC法を用いて行った.準結晶において500℃以上の高温で比熱の値がデュロン・プティの値である一原子当たり3k(kはボルツマン定数)からはずれて上昇し,800℃で5kに達した.これに対して近似結晶においては比熱の上昇は準結晶に比べて小さく800℃で4k程度であった.準結晶における異常な比熱の上昇はフェイゾンの熱的励起によると解釈できる.以前から行われている準結晶のlocking-unlocking相転移の計算機シミュレーションの結果とあわせて考察すると,観測されたフェイゾンの熱的励起は低温で安定なlocking相から高温で安定なunlocking相への相転移の前駆現象と考えられる.このとき比熱の上昇分から求めたエントロピー変化が計算機シミュレーションの結果と大体一致している.また,高温でのフェイゾンの熱ゆらぎをAl-Cu-Co系正10角形準結晶において高分解能電顕高温その場観察法を用いて世界で初めて観察した.得られた像は白点の配列構造であり,850℃の観察で白点の配列が変化するような構造変化が観察された.この配列の変化を準結晶の構造記述法である射影法に基づいて解析したところ,これがフェイゾンの熱ゆらぎに対応することがわかった.構造変化は数10秒から数分の間隔で不定期に観測された.これから,フェイゾンゆらぎの活性化エネルギー等の見積もりを行った.
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