研究概要 |
最近我々は、Ti過剰のTi-Ni合金をスパッタリング法により作製した場合、通常の溶解で作製した場合には見られない、板状のきわめて薄い析出物が出現することを見出した。この析出物は、過飽和に固溶した溶質原子が母相と整合して出現したと考えられることから、我々はこれをG. -P. ゾーンと呼んでいる。Ti-Ni合金は室温付近でマルテンサイト変態を起こし、それに伴って、形状記憶効果が現れることはすでによく知られているが、上述のG-Pゾーンが生成している場合にも、マルテンサイト変態を起こし、形状記憶特性も現れる。そこで、低温で出現するマルテンサイトとG-Pゾーンとの関連性を電子顕微鏡を用いて調べた。 500℃で600s時効した試料を低温ステージを用いて電子顕微鏡内で冷却し, 冷却過程のその場観察を母相の[100]方位から行った。母相中では明瞭に見えたG-Pゾーンのコントラストが、マルテンサイト変態した後では不鮮明となった。マルテンサイト相は冷却とともに成長するが、変態の進行は試料の場所ごとで異なり、膜厚の薄い領域ほど変態が遅れる傾向があった。電子顕微鏡で得られたマルテンサイト相の回折図形は今まで知られているB19'型で説明できたが, 母相との方位関係やマルテンサイト間の方位関係は通常のバルク材で知られているものと異なったものが得られた。このような特異な方位関係は, Ti過剰のTi-Ni合金薄膜で一般的に起こっているのか、あるいは特殊な環境下で、たまたま現れるものなのかは、今後さらに明らかにしていく必要がある。 また、これらのTi-Ni形状記憶合金にCuを加えた試料に関しても上述したG-Pゾーンが出現するかどうかを調べた。本研究ではTi_<52>Ni_<33>Cu_<15>合金について微細組織観察を行った。熱処理時間は3.6ksで500℃である。これらの試料に対して微細組織観察を行ったところ, Ti過剰のTi-Ni合金に現れるG-Pゾーンと極めて類似した析出物が観察された。Cuを添加した場合でも、過剰のTiが2元系の場合と同様に時効析出したと考えることが妥当と考えられる。
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