宇宙初期に起こったとされる電弱相転移の時期にバリオン数を生成する可能性が指摘されたが、現在実験で最も検証されている最小標準模型では電弱相転移が一次転移であること(非平衡状態の存在)や十分なCP対称性の破れといった必要条件を満たすことが出来ない。最小超対称標準模型はこの困難を避けることの出来る模型であり、二つのヒッグス二重項を含むことからその相対位相が十分なCPの破れを生じる可能性がある。我々は、有限温度の有効ポテンシャルを調べることにより、電弱相転移が一次転移となるような模型のパラメータ領域を特定した。また、その領域内でヒッグス場の相対位相が後に我々の世界になる非対称相では中性子の電気双極子モーメントの観測と矛盾しないほど小さいが相転移期に形成される電弱泡の近傍で大きくなるメカニズム(transitional CP violation)が起こり十分な宇宙のバリオン数が生成される可能性を指摘した。またこのメカニズムが起こる場合の、最も軽いヒッグス粒子の質量や二つのヒッグス場の期待値の比(tanβ)の値を求め、軽い方のトップ・スクォークの質量がトップ・クォークと同程度以下であることを見いだした。このメカニズムでCPの破れが起こり、charge transport mechanismでバリオン数が生成される場合、hyper-chargeを対称相に運ぶ粒子のうちタウ・レプトンの寄与が最も大きいことも示した。
|