研究概要 |
分子の高分解能スペクトルに秘められた豊富な情報を引き出すには、スペクトル線の各々に量子数を割り振る手続き(スペクトルの帰属)が必要である。従来この手続きは、測定されたスペクトル中に明瞭に見て取れる規則的なパターンを手がかりに行われてきた。しかし、こうした規則的なパターンが簡単には見出せないような複雑なスペクトルの例が数多く見られる。このようなスペクトルの解析を支援するために、ランダムな分布に見える測定値の並びの中に埋もれた規則性をもつパターンを拾い出す手法を、機械発見の手法を用いて開発することが本研究の目的である。 これまでに「2次階差法」と名付ける以下のような方法が有効であろうとの見通しを得ている。これは、ある一つの系列に属するスペクトル線の周波数、f(J),J=1,2,3,…は通常非常に良い近似でJの2次関数に乗ること、従って一系列に属する連続する3本のスペクトル線の周波数から計算した2次階差、Δ^2=2f(J)-f(J-1)-f(J+1)はJに依らず殆ど一定であるという経験的事実を踏まえたものである。 ●スペクトル線の周波数のリストから、似通った2次階差を与える3本組を拾い出し、リストアップするアルゴリズムを考案する。 ●拾い出された3本組を次々に連結し、一系列の候補と見なし得る、かなり多数のスペクトル線から成る組を抽出するアルゴリズムを考案する。 ●一系列の候補と見なされた組の本物らしさを判定しランクづけするアルゴリズムを考案する。 以上の戦略に従ってプログラム開発を行い、有効に働くアルゴリズムを開発してきた。今年度は,シミュレーションスペクトル(人工データ)を材料としてこれらのプログラム群の有効性を検証した。その結果、この方法は複雑なスペクトルの解析を支援するために役立つことが明らかになった一方、問題点も浮かび上がってきた。これらの問題点を回避するアルゴリズムを考案することが今後の課題である。
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