C80の異性体には、IPR則(Isolated Pentagon Rule)を満足する7種類あるが、その内のIh異性体の中に2個のLa原子を入れると、D2h対称構造を持つ最も安定なLa2@C80が得られる。各々のLa原子から3個ずつの電子がC80上に移動し、その結果、(La3+)2C806-の電子構造を与え、C806-の静電ポテンシャルの理論計算の結果は、ケージ内が大きな負の値を持ち、カチオンの種を安定化することを示した。このD2h対称構造を持つ事を実験的に明らかにする目的で13C NMR測定を行なう。La2@C80は、La@C82と異なりESR不活性であり、NMR測定ができる利点がある。ケージ構造を明らかにする目的で、高分解能139La NMR及び13C NMRスペクトルの測定を行う。C80の7個のケージに2個のLa原子を内包し、各々最も高い対称性を有するLa2@C80の非等価炭素数とそれらの内包された2個のLa原子を高速回転させた場合の非等価炭素数の関係からケージの対象が決められる。Ihケージ内の2個のLa原子が高速回転すると、2種類の非等価炭素となる。Ih構造のC806-における理論計算において、そのケミカルシフト差は、非常に接近していると予想される。理論的に非常に接近した非等価な2本の13Cシグナルは、重なりにより1本のシグナルを与えた。このことは、La2@C80がD2h対称構造を持ち、しかも、室温で2個のLa原子が内部で回転運動し、その結果Ih対称性を持つ事を示す。これらのことから、139La-及び13C-NMRにおいて各々1本のシグナルが得られれば、La2@C80はIh構造のC80炭素ケージに2個La原子が内包されていることが証明された。このことを確認するために、IR測定を試みた。La2@C80においてIh構造の炭素ケージを持つものは、La(3+)2C80(6-)の電子構造を有すると予想される。理論計算によればC80(6-)のIR吸収は、1本の強い強度吸収を有する。実測値と理論計算値との比較により、C80炭素ケージの構造を確定する。 La2@C80において二個のLa原子がケージ内で回転することにより、新しい磁気モーメントが生じる可能性がある。温度可変139La NMRの測定により、2個のLa原子の回転運動によるスピン相互作用が起こっているかを明らかにする。さらに回転運動の活性化パラメーターを解析し、回転運動の本質を解明した。 フラーレンのケージ構造とその対称性の解明は、非局在電子系との関連から重要であり、さらに、最近、内包金属の挙動、即ち、"止まっているのか自由に動き回っているのか"に興味が持たれている。ケージ内部での金属の動きがあれば、興味深い電子的、磁気的性質の発現が期待された。このことを次の実験で明らかにした。金属内包フラーレンの環電流に関する情報を得るために、NMR測定が可能なランタニド金属原子2個入りの内包フラーレンを用い、その化学修飾体のNMR測定を行った。官能基の1H-NMRシグナルを外部情報として用い、金属内包フラーレン上の環電流効果について検討した。
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