研究概要 |
我々は、ケイ素などの14族元素がβ位のπ電子系やヘテロ原子からの電子移動を強く促進することを見出し、この効果を電子移動における14族元素のβ効果と呼んでいるが、この14族元素のβ効果を利用した新しい共役電子系、すなわち炭素-ケイ素σ軌道を含む共役電子系への応用を考えた。 我々はケイ素原子の電子移動促進能力に着目し、それを利用した新しい電子供与体の開発に着手した。これまで、代表的な電子供与体であるTTFやその類似化合物を用いた超伝導性分子錯体の研究は活発に行われているが、全く新しい原理と構造に基づく非TTF系電子供与体の開発は比較的立ち遅れている。 まず、1,3-benzodithioleの様々な誘導体を合成し、その電子供与能力を分子軌道計算および酸化電位により評価した。1,3-Benzodithioleに対してケイ素原子を1つ導入すると約0.3Vの酸化電位の低下がみられた。また、ケイ素原子を2つ導入すると約0.4Vの酸化電位の低下がみられた。ケイ素上の置換基も電子供与能に影響を与えることが明らかとなった。水素原子はアルキル基と同等であるが、ケイ素上のフッ素原子は酸化電位を著しく上昇させることがわかった。また、スズ原子の導入はケイ素原子よりもはるかに酸化電位を低下させることが明らかとなった。 以上のようにケイ素原子の導入によって電子供与体の電子供与能が著しく向上することが明らかとなった。次に、我々は全く新しい形式の電子供与体の開発に取り組んだ。具体的には、優れた電子供与体として知られているジベンゾTTFの一重結合を1,3-ジシラシクロブタンに置き換えた化合物を新しい電子供与体の候補として設計した。半経験的分子軌道計算を行ったところ、そのHOMOレベルはジベンゾTTFのものよりも高く、電子供与能力が高くなっていることが示唆された。現在は、目的化合物およびその誘導体の一般的合成法の開発を行っている。 本年度の研究によって、ケイ素置換ベンゾジチオールが優れた電子供与体になることが明らかとなった。
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