研究概要 |
本研究では、申請者らがこれまで種々の高反応性化学種の安定化に応用してきた有用な立体保護基である2,4,6_-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル(Tbt)基による安定化の研究対象をより反応性の高い有機ケイ素二価化学種すなわちシリレン[R_2]Si:]に展開することとし、中でも未だ安定な合成例のない基底三重項シリレンの創出とその未知なる構造・性質の解明を行うことを目的とした。 ケイ素上にTbt基と2,6_-ジイソプロピルフェニル(Dip)基とを導入したシリレン[Tbt(Dip)Si:(1)]とシス_-およびトランス_-3_-ヘキセンとの反応を行ったところ、トランス体との反応においては付加体は得られなかったものの、シス体との反応においては立体選択的に付加反応が進行しシス付加体のみが得られた。カルベンの系からの類推により、二重結合との付加反応において一重項シリレンでは協奏的付加が進行してその立体は保持され、三重項シリレンでは段階的付加が起こりその立体特異性は失われると予測されるので、この結果はシリレン1が一重項であることを強く示唆しており、よりかさ高い置換基の導入が必要であることが明らかになった。今後は、Dip基をより嵩高い芳香族置換基である2,2"_-ジイソプロピル_-m_-ターフェニル_-2'_-イル基、Tbt基などに変えたシリレンの合成を検討するとともに、基底三重項シリレンを安定化すると理論的に予測されているシリル置換基などの電子供与性の置換基の導入について検討する予定である。一方、シリレン1の発生の検討過程において、ジブロモシランの過剰量のリチウムナフタレニドによる徹底還元反応により初めてのジアリールジリチオシラン[Tbt(Dip)SiLi_2(2)]が発生することを明らかにした。2はその構造、反応性、そして新規ケイ素化学種の合成への応用など、非常に興味深い化学種である。
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