研究概要 |
本年度は、既知の方法により2,6-ジブロモアントラセン1を合成し、これにベンザイン誘導体を反応させトリプチセン骨格を形成した後、順次官能基変換を行う方法を検討した。1に対し4-ニトロアントラニル酸より発生させたニトロベンザインを反応させ、2,6-ジブロモ-14-ニトロトリプチセン2(72%)を得た。2のニトロ基を還元してアミノ体3とし、3のアミノ基のジメチル化を行った後、BuLiによるリチオ化に引き続き二酸化炭素との反応を行うことにより目的物の一つである2-NN-ジメチルアミノトリプチセン-6,14-ジカルボン酸4(24%)を得た。一方、1と無置換のベンザインとの反応により2,6-ジブロモトリプチセン5(77%)を得た。5を一等量のBuLiと反応させた後、これにホウ酸トリメチル、過酸化水素を作用させモノヒドロキシル体とした。これをt-ブチルジメチルシリル基で保護し、一等量のBuLiによるリチオ化を行い、生じた陰イオンと二酸化炭素を反応させカルボン酸とし、これより脱保護をすることにより2-ヒドロキシトリプチセン-6-カルボン酸6(10%)を得た。さらに、2-アミノ-6,14-ジブロモトリプチセン3に対しジアゾ化、加水分解を行いヒドロキシ体7とし、これよりヒドロキシル基の保護、リチオ化、カルボキシル基の導入、脱保護により2-ヒドロキシトリプチセン-6,14-ジカルボン酸8(5%)を合成した。以上述べてきたように、本年度は目的とするトリプチセン誘導体のうち4、6及び8を合成した。いずれもpu11型置換基が電子吸引性(π-アクセプター性)が比較的弱いカルボキシル基であることから、三者ともthrough-space相互作用が関与したと考えられるような効果は各種スペクトルに観測されていない。4は無色固体として得られたが、酢酸、DMSO等の強極性溶媒には溶解するものの、単結晶を与えにくい。空気中で次第に酸化され褐色を呈する。一方、6は安定な無色固体であるが、これも種々の溶媒に対する溶解度が低く、また単結晶を与えにくい。8に関しても6と同様であった。
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