研究概要 |
今年度の研究は,大マゼラン星雲の化学組成を背景として,天体物理でいえば素過程の研究にあたる研究を行った.特に,主要な研究成果を以下の二つのテーマにつき得ることができた. (1)低金属星におけるs-元素合成 (2)高速回転する大質量星起源の中性子星の進化と構造:一般相対論の効果と状態方程式. (1)低金属星におけるs-元素合成 大質量星では質量数が90程度までの重元素が合成されるが,低金属の星では^<16>O(n,γ)^<17>Oのような通常重要でない核反応が極めて重要な役割を果たすことがわかった.このことは東工大のグループにより新たに測定された核反応率を用いることにより明らかになった.彼らの精密測定では従来の核反応断面積よりこの反応は100倍以上大きくなり,大マジェラン星雲中の重元素の起源の研究に大きな影響を与えるはずである.実際に,我々の計算で初期組成として太陽系組成比を仮定した場合と比べて数十倍から数百倍s-元素の生成率が落ちることがわかった. (2)高速回転する大質量星起源の中性子星の進化と構造:一般的相対論の効果と状態方程式. 大質量星は高速に回転していることが観測的に知られている.しかし回転が星の構造に与える影響はほとんどわかっていない.とくに高速回転する場合は数値的に構造を求めることが困難であったが我々は核燃焼を取り入れた計算に成功し,高速回転が核燃焼している星の構造にどんな影響を与えるかを明らかにした.その結果考慮しつつ,白色矮星から中性子星への進化を超高温,超高密度,かつ一般相対論の効果を取り入れて吟味した.その結果,十分高温度でかつ,星が十分の角運動量を持てば,白色矮星から中性子星への準静的進化が可能であることを証明することができた.大マジェラン星雲で発見された超新星1987Aの残骸に超新星が見つかれば,我々のモデルとの関係をさらに詳しく調べていくことが期待できる.
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