研究概要 |
単核錯体中にチオラト基を導入し、これを金属イオンと反応させることにより、単核錯体がある規則性をもって集合した硫黄架橋多核錯体の形成が期待される。この際、単核錯体としてキラリティーを有するものを用いれば、多数のキラル中心により構成される不斉分子集合体の構築も可能となり、同時に高次構造化に伴う不斉認識や不斉増殖も期待される。本研究では、主に、キラリティー(Δ/Λ)をもつ八面体型のトリス(チオラト)、ビス(チオラト)、およびモノ(チオラト)コバルト(III)単核錯体と直線性のAg^+や平面性のPd^<2+>との反応を行い、a)単核から多核構造への段階的な高次構造の構築、およびb)多数のキラル中心からなる不斉集合体の開発を目指した。 その結果、D-ペニシラミンを配位したビス(チオラト)コバルト(III)単核錯体trans(N)-[Co(D-pen-N,S,O)_2]^- (D-pen=NH_2CH(COO^-)C(CH_3)_2S^-)と硫黄架橋Co^<III>Pd^<II>ニ核錯体[PdCl_2{Co(aet)_2(en)}]^+の反応により、trans(N)-[Co(D-pen-N,S,O)_2]^-が選択的に[PdCl_2{Co(aet)_2(en)}]^+のΛ体と結合したCo^<III>Pd^<II>Co^<III>三核錯体Λ-[Pd{Co(D-pen-N,S,O)_2}{Co(aet)_2(en)}]^<2+>が形成されることが分かった。さらに、残った[PdCl_2{Co(aet)_2(en)}]^+のΔ体とtrans(N)-[Co(D-pen-N,S,O)_2]^-はメタセシス反応を起こし、2つのΔ-cis(S)-[Co(aet)_2(en)]^+ユニットからなるΔΔ-[Pd{Co(eat)_2(en)}_2]^<4+>と2つのtrans(N)-[Co(D-pen-N,S,O)_2]^-ユニットからなる[Pd{Co(D-pen-N,S,O)_2}_2]^0を生成することも分かった。つまり、trans(N)-[Co(D-pen-N,S,O)_2]^-をキラルな錯体配位子として用い、これを[PdCl_2{Co(aet)_2(en)}]^+と反応させることにより、カラムで容易に分離できる0価、2価、4価の三種の光学活性なCo^<III>Pd^<II>Co^<III>三核錯体が得られることが判明した。これにより、キラルな錯体配位子を用いてのキラル選択的な多核金属錯体の構築が可能であることが明らかになった。
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