研究概要 |
本研究では、異なるレドックスユニットを共役鎖で連結した一次元のポテンシャル傾斜場の構造と物性を解明することを目的とし、本年度は、ドナーとしてフェロセン、アクセプターとしてキノンがπ共役結合した錯体について研究した。 新化合物 1-ferrocenylethynylanthraquinone(1),1-ferrocenyIethynylanthraquinone(2),1,8-diferrocenyl-anthraquinone(3),および1,8-diferrocenylanthraguinone(4)を合成し、1,2および3については、X線結晶構造解析を行った。その結果、1,3においては、フェロセニル基のCp環の面はアントラキノンの面とほぼ垂直であるが、2では両面がほぼ平行であるという大きな違いがみられた。 Bu_4NClO_4/CH_2Cl_2中のサイクリックボルタモグラムにおいては、全錯体においてフェロセンとキノンに由来する酸化還元波が現れ、複核錯体3では、フェロセンサイト間の電子相互作用のために、フェロセンの2段の1電子酸化波が観測された。 1のCH_2Cl_2溶液にCF_3COOHを加えていくと、アントラキノン部位の還元電位が貴側にシフトし、吸収スペクトルの変化からキノン部位とフェロセン部位の電荷移動相互作用が大きくなることを示した。さらに、CF_3SO_3Hとの1:1の反応により、アントラキノンのOにH^+が付加し、フェロセンサイトからの電子移動が起こることによって形成されるクムレニデン型錯体を合成単離した。3は、基本的に1と類似の挙動を示した。一方、2のプロトン存在下での挙動は上記錯体と大きく異なり、共役系の物性が置換位置に大きく依存することが示された。 以上の結果より、キノン-フェロセン共役錯体においてはH^+付加と電子移動に伴い、ユニークな構造・物性変化が起こることが示された。
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