研究概要 |
我々は[M(CN)_8]^<n->(M=Mo,W)に基づく新規分子磁性材料系の確立と優れた磁性と光機能性を持つ分子材料の開発を目指している。本年度は主に次の内容ついて検討を行った。 1.M_9W_6スピンクラスターの構造と磁性 組成{M_9[W(CN)_8]_6・24alcoho1}・x alcoho1(M=Mn(1),Co(2),Ni(3))を示す一系列の単結晶が得られた。X線解析よりそれらはいずれも全ての面がキャップされたキュバン構造{M_9[W(CN)_8]_6・24CH_3OH}を持つ15核CN架橋錯体が基本骨格になっていることが分かった。Mn_9W_6ユニットはS_6の対称性を持つが、Co_9W_6とNi_9W_6のユニットはいずれもC_2軸しか持っていない。磁化の測定より、1、2、3はいずれも大きなスピン基底状態を持っていることがわかった(S=39/2(1),S=21/2(2),S=24/2(3))。また、交流磁化の測定から1と2それぞれ2.5Kと3K以下から遅い磁化の緩和が起こることが分かった。しかし3は磁化の緩和が起こっていない。これよりM_9W_6クラスターの基底状態のS値は構成金属イオンを選ぶことによりある程度制御でき、また極低温における磁化のブロッキングはSの大きさに影響されるだけでなく、構成金属イオンの異方性やクラスターの対称性にも左右されることがわかった。 2.スピン相転移化合物 光磁性材料を設計する際、双安定性を持たせることがキーポイントとなる。本研究はCs_xL_y[W(CN)_8】(Lは配位子)の一連の化合物で、配位子場の強さを変えることにより、Co^<III>(S=0)-W(IV)(S=0)の電子状態(LS)とCo^<II>(S=3/2)-W^v(S=1/2)の電子状態(HS)のエネルギーを近接させることができるようになった。実際、配位子として3-シアノピリジンを用いたとき205Kから150Kの間で大きなヒステリシスを示すスピン相転移を持つもの1が得られた。さらに、5Kまで徐冷したサンプルに500nm付近の光を照射すると、劇的な磁化の増加が観測された。これはおそらくLS状態からHS状態への遷移によるものと思われる。以上、1は高温領域で熱誘起スピン相転移、低温領域で光誘起スピン相転移を示すことがわかった。
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